第39期予選時の投票状況です。10人より21票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
8 | 頭上、注意 | とむOK | 4 |
16 | トーフ地獄 | ヒモロギ | 3 |
24 | 部屋 | 曠野反次郎 | 3 |
18 | 航送 | 川野直己 | 2 |
25 | Black and White | るるるぶ☆どっぐちゃん | 2 |
3 | 遺書 | 千葉マキ | 1 |
10 | Egg | 時雨 | 1 |
11 | そしてとても温かかった | 真央りりこ | 1 |
15 | 15分だけ | ヒロ | 1 |
17 | よめさらなめゆ | しなの | 1 |
20 | クレーの夜 | 宇加谷 研一郎 | 1 |
23 | そぞろあるき | 朽木花織 | 1 |
予定していたお出かけは鼠御殿だったのですな。とそんなことはどうでもよいが。
同じ超現実の事柄を述べるにしても、いろいろな作り方があるだろうと思う。この作品の場合、頭から生えた標識の始末は別につけていない。この標識によって以前よりも人間関係がよくなったというのが面白い所である。最近は子供たちの世界も息苦しくなっていると言うが、こう大らかにいけばよいのにと思った。(海)(この票の参照用リンク)
テンポがよく、最後まで面白おかしく書けているように思いました。
この調子でいくと、数年後には
娘が父をこつんとやっているかもしれません。(この票の参照用リンク)
今月はこれしかないこれしかないこれしかない。はち番しかない鶴岡八幡宮。えー、だってさー、面白いじゃん。ってか面白くない? お も し ろ く な い ? 面白いよね。うん面白い。えええ面白い。あー! 面白い面白い。ああ面白い。堪らないです。ってか泣いた。泣き喚いた泣き叫んだ。なんてねそれは嘘ね。言い過ぎね。そりゃあね、千字なんて五分もかからず読めるんだしさ、ってか三分もかからないかも知れないわけでさ、たったそれだけの時間で人の心を縛ったり操ったりなんてなかなかどうこう、そんなことするのなんて至難の業じゃない? でもさ、でも気に入ったやつならさ、寒い夜に布団の中に入った時なんかにさ、それとも冷たい外気に晒された後に電車に乗ってさ、めちゃめちゃ暖まったウォームフルな例のちょっと汚い感じのイスに座った瞬間寝入ってしまうような時にさ、不意にこのとむさんの千字なんかが不意にさ、頭に浮かびあがったら素敵な気分になるじゃない? 気持ち暖まるじゃない? そういうことの連続で人生が埋め尽くされていたら最高に素敵で満足できそうじゃない? 特に電車だったりしたらさ、そのまま眠ってて起きたらさ、うわ着いた、あら着いた、下車駅に着いてた、って焦って立ち上がったら吊革に頭頂部ぶつけちゃってその瞬間、「頭上、注意」なんて思ってひとり笑っていられたら、案外ばら色の日々なんてとても簡単に訪れる事実に、気付いちゃうかもしれないじゃない。
まじかよ標識かよ! 娘の頭に標識生えちゃったのかよ! そりゃ大変なことじゃないか。うう、でもお父さん良かったね。どうなることかと思ったけど、なんか上手いことまるく治まって良かったね。家族に平安が訪れたんだね平安京が。俺はさ、こういう親になりたいよ。なりたいよなりたいよお母さーん。でもなれないかも知れないよお父さん。お父さん、それは貴方の所為だ! なんてな。兎に角ともあれこの千字を君のプリンタでプリントアウトしてさ、例えば好きな女の子とかさ、ちょっとでも気になる女の子が居たらさ、帰宅直前に鞄にそっと忍ばせようぜ。翌日、何あれって絶対に聞いてくるからさ、そしたら強引に恋芽生えさす。真剣なんだ。でも標識娘よ、若い君が一番良かったね。
あれも千字これも千字そして朝野十字さん。俺は語呂が悪くなったとしても朝野さんには(さん)を付ける! うう、ぐすん。頑張ります。ごめんなさい。
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オチがいいですね。いかにも子どもらしくて。(この票の参照用リンク)
今期もっとも新鮮で、くっきりしたイメージを与えてくれた作品である。『往生要集』の時代から、人間は地獄をさまざまに想像してきたのに対して、極楽のありようはワンパターンであるとよく言われるが、ここにまた新しく一つの地獄がつけ加えられたわけである。(海)(この票の参照用リンク)
ウィットのあるバカバカしさ。(この票の参照用リンク)
「トーフ地獄」のおもしろさは、「豆腐を粗末にする人間への憤り」という一応、もっともなテーマをあげつつも、攻撃的でも、感傷的あるいはイデオロギー的な話に陥ることなく、徹底的にトーフ地獄を実現しようとするお話に専念したところにある。
舞台は地獄であり、トーフ地獄の具体的内容についての検討会からはじまる。地獄にすむ牛などは「鉄塊を仕込んだ豆腐の角を亡者にぶつける」という提案をしたりして、これは「トーフの角に頭をぶつけて死んでやる」という古典的ギャグをもちろん踏まえているのであるが、作者は「極めて退屈な牛頭のプレゼン」と簡単にすます。しかし僕にはこれは新鮮で刺激的で笑わせてもらった。物語は進み、「地蔵豆腐」という「喉のやける冷奴」で話が決まるのもおかしいし、ここから物語がひっくりかえって、「豆腐を粗末にする人間」というのが女閻魔のデマであった、という「だいどんでんがえし」にはおどろいた。まあ、結末にはやや不満が残るが、十分力のある作品とみた。
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儀式的空間の演出が絶妙です。ただ本だけを並べずへの字口のクマのぬいぐるみを配置するところとか。印のついたメモ、あたかも何か調べたように散乱した本、部屋の外への展開を思わせる流れだったのに、いきなり密室オチで裏切られました。裏切られていいの? いいの? と不安になりながらも表現に酔って読みきれた作品です。
蛇足ですが、るるるぶ☆どっぐちゃんサンとはキーボードつながり。
以下、長くなりますが、その他の気になった作品について書きます。
4 幻のデート 朝野十字さん
朝野さんはこういうオチものも実に上手いですねえ。
ただ、死産だった妹をここで出す理由が私には読み取れませんでした。他の作品を読むと、もっと登場人物の関係をきちんと拾って書いているし、今回の妹は、オチのためだけに使われている気がして、残念です。
10 Egg 時雨さん
お母さんの感じがなかなか良かったと思います。
「生卵がゆで卵に姿を変えても卵であることは変わらない」…焼いたら骨になりますが? という妙なツッコミが頭に浮かびました。亡くなっても母は母、というのが書きたかったのだとすれば、最後年老いていく母でなく、亡くなった母への気持ちを書いて欲しいと感じた、ということです。
11 そしてとても温かかった 真央りりこさん
こんな水曜日いいなあ。これを読んでいた時、折しも水曜日。途中下車して遊んでたんだけど、ちょっと何か期待して路地裏に入ってみようかなあ…。もう夜だけど、暖かい夕間暮れの残滓だけでも嗅げないかなあ。
感じたままに言いますと、占いの結果に気をもんでしまった一読者としては、路地の店の並びなどどうでも良くなっていて、結果、場面の転換に戸惑ってしまった。
結局小瓶は倒れなかったようですが、それは、どうでもいいですか?
15 15分だけ ヒロさん
15番目で「15分」っていいタイミング。
時間限定でなきゃ傍にいてもらえないって思い込む理由を考えてみました。彼を受け入れるも何も、彼女の感情は慰めて欲しいときに傍にいて欲しいだけの一方的なものであり、つまり愛ではなくて依存だったんです。その後ろめたさを無意識に感じて「15分」なのでしょうか。
彼女の告白を受け入れるにしても断るにしても、彼は吐息をつくしかない。そんな孤独な、悲しい物語なんですね。
16 トーフ地獄 ヒモロギさん
うーん…「もったいないオバケ」の変形でしょうか。これくらいで地獄を一つ増やしてたら、ピーマンとかセロリとかの立場は…。
地獄の閻魔になるほどのやり手のキャリアウーマンなら、提案者に全責任を押し付けて辞めさせるくらいの開き直りがないと。まずライバルの調査結果を鵜呑みにするあたり、地獄の経営者としては甘過ぎますよね。
ラストの表現は印象に残りました。
17 よめさらなめゆ しなのさん
嫁皿舐めゆってピノコですか。皿まで舐める貧乏性が嫁の肥満の始まり…って余計な話は置いといて。
二期前の作品と表裏一体なのでしょうか。時間遡行の無意味を論述するのはいいのですが…ラストにうまく繋げて読めませんでした。というのは、「時間の方向など、どうでもいい」という結論が既に出てしまっている状態で、どっちに向かっているか問うのは既に無意味なのではないかと疑問を持ったからです。
さらに。遡行に認識が遅れるという設定はわかるのですが、さらに遡行した場合、高校生の認識で小学生の一瞬を過ごすのでしょうか。今語っている「わたし」が、遡行を始める起点の自分でさえないという可能性も思い浮かびます。そんな自己喪失の不安に包まれている時間に、感情とか愛とか語っている心理的余裕はなくて当たり前だと思います。(この票の参照用リンク)
>なぜだか熊のぬいぐるみが置かれていて、色も大きさも不揃いながら、みな一様にヘの字に口を結び
すげえ。
……という感想しか書けないです。申し訳ない。(この票の参照用リンク)
ボルヘスの香りがする作品、と言うだけで一票を投じます。
欠けたタイプライターはエノンセとディスクールのメタファでしょうか?(この票の参照用リンク)
444字ですから。というのは冗談です。
月へ向かう船と聞くと一瞬SFのような印象を受けますが、
この話は地に足をつけている、というか、しばられている気がして
その差異にひかれました。(この票の参照用リンク)
貨物列車が利いています。味わい深い作品です。(この票の参照用リンク)
真似の出来ない文体。
真似したいのか。うーん。(この票の参照用リンク)
作中の都合のよさを、それと感じさせない構成力に敬意を表し。(この票の参照用リンク)
おーい。もしもし?(この票の参照用リンク)
奇抜ではない安心感。(この票の参照用リンク)
朝野十字「幻のデート」はいつもながら話に無駄がなく、うまいなあと感心したけれど、はたして「うまいなあ」というのは褒めることになるのだろうか。というのは、落語のように必ずオチがあるのが小説ではないからだ(<真央りりこ>推薦のところに、「幻のデート」のことを書くのもおかしいけれど、もう少し書かせてください)
「幻のデート」のラストに
<満夫の母は、満夫を出産した後に再び妊娠して、検査してもらって、女の子であることがわかって、エリカという名前までつけたことがあったが、残念ながら、エリカは死産だったのである>
という部分があって、この部分は正直言って、なくてよかったと思う。これがなければ、この作品には読者の参加の余地を残す優れた作品だった。ところが、エリカは死産、という部分で、すべてが説明的になりすぎていて、うまいけれどつまらない。こういう作品は19世紀、20世紀にたくさん書かれていて、今でも職業作家が十分に書いている。十分力のある朝野十字には読者に妥協しない道を選んでほしい。
で、<真央りりこ>の「そしてとても温かかった」であるが、この話には明確な内容があるとは思われない。ある日占い師から「水曜日にガラス瓶がたおれます」と言われ、それで主人公は最後にガラス瓶を買うのであるが、だからこのガラス瓶がなんだったのか、というのは明確に説明されない。しかし僕は僕だけの「ガラス瓶」的なものを感じながらこの話を読むことができた。
主人公は「占い」直後、長年住んでいる町の風景が急に色褪せるのを感じる。
<路地に一歩踏み入れたとたん、がくんと膝が抜けたような気がして、なにもかもが一瞬に色褪せてしまったのだ。>
これは主人公が古い習慣から新しいところへ飛ぶための「町との離別」の心理描写に思えて、その予兆としてのガラス瓶とも読めるし、「平凡な日常」の「平凡さ」に潜む非現実を主人公が認識したある一日の話ともとれる(あ、梶井基次郎の「檸檬」に通ずるものがありますね)。
要するに、この話は読者が自分の気持ちを付託できる、開かれた作品であって、しかもこの話は作者である真央りりこでなくては書けない文章になっている。
結果ではなく過程が、小説はたのしい。その点がよかった。うまくまとまってないが、とにかくこれも推薦させてもらいます。
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三つめをどれにしようかと迷って、いろいろ候補はあったのだけれども、結局これにした。ありがちで甘ったるいという他にも、冷静に見れば女主人公の身勝手さとか、愛とは甘えることですかとか、いろいろ文句はつくかも知れないが、小説の作り方としては甘えはなく、しっかり書いてあるとおもう。実は個人的に、愛とは何かしらと改めて青臭く考えることが最近あって、それで何となく親近感を抱いたのでもあったろうか。(海)(この票の参照用リンク)
「短編」では注目の<るるるぶ☆どっぐちゃん>と<朝野十字>を最初に読み、それから全編に目を通した。<るるるぶ☆どっぐちゃん>の「Black and White」は十分によかったんだけど、<しなの>の「よめさらなめゆ」を読んでびっくり。こっちに投票します。
「よめさらなめゆ」は、いきなり高校生にタイムスリップした「わたし」(脳はまだもとのまま)が高校の窓ガラスに映る自分をみながら、時間について考える話。タイムスリップ自体は非現実で、起こりうることがないものの、「よめさらなめゆ」を読んでいると、それが本当のことのように思われ、さらには「わたし」が「時間」について考える部分は、安易にセックスや恋愛に走る(僕もそうだけど)最近の小説と違って、ずっしりと内容がある。
注目の<るるるぶ☆どっぐちゃん>もきちんと哲学を持っている人だと思うけど、「Black and White」はやや、「お嬢様の反抗期物語」といった図式から抜け出ていないように思う。割れたガラスは美しいけれども、ピアノの音だって美しい。革命にはロマンがあるけれど、権力を持つものの哀しみだって馬鹿にできない。そこらへんはサン=テグジュペリの「夜間飛行」のリヴィエールを持ち出すまでもない。
「よめさらなめゆ」から脱線したけれど、僕はとくに
<わたしはふたつの可能性について考える。一つはこのまま時間の逆転は止まらないで、さらに過去へ突き進んでいくこと。わたしはやがて幼児期にさらには、母の胎内へと戻るだろう。しかし、それは実際のところ墓穴に入るのと変わらない。あたたかく湿っていて、水が流れている、山裾の古い墓場と変わらなかった。
もう一つは、時間がここで再び逆転して、前へ、少なくとも以前は前と呼んでいた方向に進みはじめること。わたしは再び高校を卒業して、人生をやり直すだろう。しかし、そのことに何の意味があるだろう。わたしには将来を生きた記憶は何も残っていないのだから、同じことをただ繰り返すだけだった。
墓穴も子宮も実際には等価だった。そこは有無が転じる場所だった。言い換えると、時間が転じる場所だった。時間が転じて、わたしが存在しない時間になる。あるいはわたしが存在する時間になる。わたしが存在しないところには、わたしの時間は存在しないが、時間が存在しない訳ではなかった。>
の部分が大好きだ。この部分は以前の朝野十字の作品を超える格調がある。タイムスリップを<母の胎内へと戻る>とし、その母の胎内を古い墓場ともっていく部分はうねる文体で、美しい日本語のリズムだなあ。そしてそのリズムや比喩に頼りきってないところもいい。ちゃんと論理的で、時間についての思考のあとが残っている。あと、ゆめならさめよ、の逆さ読みというのもよかった。
こういう短編を読めるのは幸せで、これは文句なく推薦したい。
(この票の参照用リンク)
「女はこのまま絵とともに、もっと山の奥へ入っていけるような気がした。が、やめておいた」
「あたし四国に帰る、と女が言うと、男は携帯電話をトイレに落としたような顔をした」
やばいです。こういった表現がツボにズキューンです。
あと、『森の奧』から四国の故郷を連想するあたりとか。
私はクレーの絵をよく知りませんが、この話を読んでいると
勝手に親しみが持てます。何となく。(この票の参照用リンク)
何度か読んだが、よくわからないところがたくさんある。肝心なところをはっきり言わないで婉曲に表現したい気持ちはわかるが、やりすぎると不親切だと思う。
とはいえ、何度も読んでみようという気にさせてくれる作品はこれしかなかった。
銀鮫がなにをいみするのか、架空なのか、なにかの比喩なのか、銀座にうとい人間にはよくわからない。あるいは二人の関係はどういうものなのか。
なんにもわからない。
しかし、銀座の空に銀色に光る鮫が泳いでいる、というイメージと、男が女を口説くシチュエーションと重ねていると私は解釈し、なかなかいいじゃないかと思った。(この票の参照用リンク)