第39期 #18

航送

 埠頭に敷かれた線路の末端から転がり墜ちた貨車は、コンテナを甲板にばらまいて幾つかの照明を砕いた後、自らも横転して停まった。それらの雑多な貨物を載せた船はディーゼル機関を喘がせて舫い綱を引き千切り、西進を始める。残されていた照明もまた鈍い警笛が鳴り響くと共にはじけて飛散した。

 西方の空に朧月が浮んでいるだけの闇へ、僕はコンテナから漸く這い出て息をついた。積み載せられた人々は僕を含めたすべて皆が月を仰いでいた。果してこの航海が旅行であるか或いは流刑だったのかと記憶は何故か明瞭でなく、けれど貨物船は月までの巡礼船と化したように月が傾いた方へ針路をとり、積み載せられた人々を宥めた。実際のところは航路の涯てにある行き止り、終端を目指す片道燃料の船だったのかも判らない。僕はただ、いつか転生したあかつきには空輸を希いたいものだと思い、御神体のような月が鎮座する水平線を拝み、月までの航送はいずれにしても苦行に相違ないと考えていた。船はやがて月の後を追って緩やかに沈み、荒み切った僕を鎮める。



Copyright © 2005 川野直己 / 編集: 短編