第39期 #25

Black and White

 せっかくさあ、一生懸命やって、これは最高にクール、超かっこいいじゃん自分、とか思えてもさあ、安っぽいポスターの貼ってある路地裏のコンクリート壁に叩き付けた酒ビンが割れてさあ、ぱりーん、って割れて、それでわずかに差し込んでくる光にガラスがきらきらと光ってさあ、それだけでめちゃめちゃ綺麗でさ、なんだ自分、全然駄目ジャン、良くねえジャン、って思ってしまうよ。ガラスだったら子供のころから好きだったから良く割ってたけど親に見つかると怒られたからピアノばかり弾いていた。ピアノを弾くと親は怒らなかったけれど、あたしは怒るね。なんだよピアノなんかじゃなくてガラス割ってた方がやっぱり綺麗で楽しいじゃんって。そういうわけで昨日からぱりんこぱりんこやっていたわけだけれど、さすがに疲れた。数十本もお酒飲んだから流石に疲れた。疲れたっていうかもう金が無い。
 歩き出す。もう朝だ。ふふふ、ふらふらと朝の五時の街を歩く。ブティックのウインドーに、タキシードのままのあたしが写っているのが見える。今度のコンサートは何を着ていこうかな。花束なんていっぱいに抱えて。この店のテンガロンハットはどうかな。タキシードにテンガロン。良いね。この店のガラスケースぱりんこして持って行ってしまおうか。ぱりんこしたら綺麗なんだろうな。とても綺麗なんだろうね。まったくなあ、ああまったく。ピアノなんて、馬鹿みたいだねえ。
 石でも落ちてないかと思ってしゃがんだら、砕けた十字架に手が触れた。
 アスファルトに白い十字架がばらばらに砕けて落ちている。
 ああ、そうか、昨日の雷で壊れてしまったのか。
 壊れてしまったものには何か意味があるのだろうか。
 壊れることに意味があるのか。
 壊れてしまったものはいったい何なのだろうか。何になるのだろうか。
 壊れていなければ、壊さなければ、意味があるのだろうか。
 あたしは手を伸ばしがさがさと十字架を拾い集める。
 これを持って何処へ行こうか。何処へ行こうね。あたしは何処へ行こう。何処に行けば良いだろう。何処に行きたいのだろう。ピアノがうまく弾けない。ピアノをうまく弾きたい。ピアノがうまく弾けない。
 壊れた十字架を抱えてあたしは坂を降り始める。
 坂の途中で女の子とすれ違う。彼女は壊れた鍵盤をたくさん抱えていた。
 まだ朝の五時だ。まだ今日は始まったばかりだ。割れた鍵盤の音が遠くからかちゃかちゃと聞こえる。



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