第162期決勝時の投票状況です。7票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
6 | 卓くんとの再会 | 三浦 | 2 |
12 | 草を食べる社員たち | 白熊 | 2 |
17 | 街 | かんざしトイレ | 2 |
9 | 女の子は泣きながらドーナッツを食べる | なゆら | 1 |
三浦版『時をかける少女』に一票。
千字という原稿用紙2枚半の枠組みのなかでよくこんなにまとめられたものだと感心。なおかつ、ただのあらすじになっていないところに作者の技量と経験をかんじる。(この票の参照用リンク)
三浦「卓くんとの再会」
予選投票で感想を書いた。
なゆら「女の子は泣きながらドーナッツを食べる」
この表現の工夫はとてもおもしろい。お話は、2人の登場人物の会話劇。
主人公(?)の「女の子」は、このお話のなかできわめて屈辱的な立場に据えらている。また、「危険である」「店員」は口がとってもすべっている。
店員は悲しんでいる女にきわめて自覚的に攻撃的な言葉を投げかけており、その残酷さが、表現の工夫とまじわって初読のおもしろさを生み出している。
反面、書かれている内容にざらつきを覚え、会話の中身へ立ちゆくと、自分が残酷な面白さに浸ったということを自覚させられる。
けど、店員は最後にきっぱりと断られる。その点、最後のやりとりはアフターケアとしても働いた。もちろん、「空いているお席」は嫌味にもとれるが。
白熊「草を食べる社員たち」
俺ならF5連打する。出勤は憂鬱だと思った。
設定を紹介してもらい終わった時点で作品が文字数に達した。
かんざしトイレ「街」
恐怖に由来してトイレや入浴が「おっくう」になるのは面白い。
怖さに適応するために鈍感になってゆくという感覚は、自分にはない。
ただしその意味での「おっくう」と「街」を覚えることに「おっくう」となることとは同様か。この点は、感想として、自分は留保を残した。
投票は趣味で「卓くんとの再会」(この票の参照用リンク)
迷ったけれどこれで。発想が好きです。(この票の参照用リンク)
意図的に複雑な不完全さを加えた印象。第一印象では、なんだこの作品はと思っていたが、何回か読むうちに心に浸透してきて、いや、到底理解(ここでの理解とは読者に起因する理解で、作者が深読みが必要なことは書いていないと言っていることとは違う。作者は読みづらいと言っているが、例えば「コアラの間も僕は会社で働いていたらしい。」という一文は前文との関連はないように見えるし、「観念したように支度を終えて部屋を出ていった。」も前文と関連ないように見える。きっと、作者は無意識に関連を感じて書いているので深読みは必要ないと思っているのであろうが、読者はここで一旦、中断を余儀なくされ、前後関係を見直すことを強要させられるのである。この見直しを悪と言っているのではない。そういった予測不可能な読書体験が生まれるからこそ面白いと言っているのである)できているとは思えないが、これを書いている4月2日時点で、大半の作品は忘れているのに、この作品だけは消えなかった。最後の言葉にならない表現に、本当にこの終わり方で良かったのかといった印象はあるが、どうしても忘れられない作品であることは違いない。
「伸びーる、伸びーる」の作者にも実は期待していたのであるが、3作目で失速(レベルの高い作品を書いてくれるので厳しい評価を付ける)したのが残念である。(この票の参照用リンク)
#6
迷った。ゲームのワープを思わせる黒い渦も好みだし、淡々とした語り(冒頭の好き以外に感情が直接的に書かれていない点)とラストのどうしようもなさが良い。平行世界? 1000字で説明がくどくないSFも書けるんだと気づかされた(もちろん技量がものを言うが)。
なので本当に悩んだ。さらにウィットに富んでいたりしたら間違いなくこちらを選んでいただろう。ただそれは物語とは調和しないかもしれない。
#9
地の文を語るという発見。楽しかった。ただ繰り返し読むと言葉の使い方に粗が目立つ。
#12
発想のみでラスト投げっぱなし、カタルシスもない。ネットスラングを使うならもっと効果的に使ってほしいし、であれば小説である必要はないと考える。既知とは思うがユーカリは人間には毒だ。
#17
今期はこちら。端から見るととるに足らないことでも当人にとっては一大事、というのは読んでいて楽しい。執着に人となりが表れると常々思っていて、そういう意味で人が描けているこの作品を評価したい。細かな部分では「トイレのふたを開けたら」の繰り返しと「当然である。」の言いきりがよかった。最後に唐突に「街」が出てくる点に違和感がある。あとは折角の恐怖・不安を「おっくう」という中途半端ネガティブな位置に落としてしまうのはもったいない。もう一歩、跳躍してほしかった。(この票の参照用リンク)
エピソードの流れがいいと思います。「街」というテーマに辿り着いて作品が仕上がる様が巧みだと思いました。(この票の参照用リンク)
決勝投票のために、もう一度4作品を読み直した。
色物のなかだと「街」は弱く感じる。「当然である」がわからなくて、「おっくう」への流れが強引に感じられた。
「卓くんとの再会」は、ふたつ、「年上だ」のところと「早川に助けてもらった」のところがわからなくて、早川さんの話はいいけれど、「年上だ」のところはどうして年上なのか、説明がほしい。百字残っている。
「女の子は〜」は発想で勝る。実際には、括弧内に含まれていくのは、地の文が先で、すべてがキャラクターの内の声ではない。地の文が、自分の口から「勝手に」発せられるもんだから、キャラクターは悪ノリして、発する言葉の中に、自分の本心を紛れ込ませていく。すると素敵な世界が待っていた。(この票の参照用リンク)