第162期 #6

卓くんとの再会

 小学五年生の二学期から卒業するまで卓くんが好きだった。卓くんは私と一緒に図書委員をしていて、ミヒャエル・エンデやハリー・ポッターを読んでいた私に江戸川乱歩の少年探偵団を薦めてくれた。それが一学期で、二学期から卓くんは私のことを無視するようになった。六年生になって卓くんと私は学級委員に選ばれ、すると卓くんはまた私と話すようになった。どうして無視したの、とは聞けなかった。そして卓くんは卒業式の翌日に他県に引っ越してしまった。
 あいつ死んだよ、と田中くんは言った。高校三年の三学期にバイク事故で亡くなっていた。遅刻組の原ちゃんとみよちんが到着して田中くんは離れていった。同窓会の帰り、誰もいない日曜の夜明けの道に陽炎のように歪む黒い渦が口を開けていた。これに入ると時間旅行できる。中学一年の一学期以来だ。私は卓くんのことを考えて渦の中に入った。
 真っ黒でゴムのような水中と地面のない真っ白な空を抜けて私は自分が通った小学校の正門を目の前にしていた。探すと渦は正門の右側にあった。私は上着とマフラーを脱いで校内に入った。すれ違う子供たちにこちらから笑顔で挨拶する。校庭に回ると時計が三時を指しているのが見えた。事務職員に弟を探すと断って校舎に上がると図書室に向かった。理科室を過ぎた辺りで早川か、と声をかけられた。振り返ると理科室から体を出した男が神谷卓だよと自分を指して言った。理科室に入り卓くんが扉を閉めるのを待って、今何歳と聞いた。二十五と卓くんは言った。年上だ。そうか、と卓くんは悲しそうに笑って、早川に助けてもらったんだ、と言った。そしてこのまま自分と未来に帰ってほしいと言った。私は先に行く卓くんのあとを歩いた。どうして無視したの、と聞くと、卓くんは前を歩いたまま、好きだったんじゃないかなと言った。正門の渦の前で、ここでお別れだと言われた。同じ時代にはたぶん着かないと思う。長生きしろよ、と卓くんは言った。私は笑って、手を振って渦の中に入った。
 あいつ死んだよ、と田中くんは言った。高校三年の三学期にバイク事故で亡くなった。
 同窓会の帰り、誰もいない日曜の夜明けの道には何も変わったところはなかった。



Copyright © 2016 三浦 / 編集: 短編