第162期 #5

昨日見た夢

 彼はドラッグストアにいた。ドラッグストアのはずなのにそこはスーパーのようだった。彼は店の中で服を脱ぎ始めた。というのは、周りの人間がみな自分と同じようなパーカーを着ていたからだった。別に、彼にあまのじゃくだという自覚はなかった。みんなと同じ制服を着ていてもとくに不満はなかった。けどなぜかその時はみんなが自分と同じような服装をしていることがひどく気に入らなかった。彼は上半身裸で店内をうろつき始めた。一人の老人とその孫らしき男の子が、彼の方を見た。けど彼らは全然、彼が上半身裸だということを不思議に思わなっかった。
 しばらくして、彼はAを見つけた。Aというのは彼と同じ学校に通っているクラスメイトだ。おしとやかな才女という感じで、彼女に興味を持つ男も多くいた。彼はその彼女を見た瞬間に、これはまずいと思った。彼は自分では認めたくなかったが、一人の男として、彼女に興味があった。こんな恰好を見られるのはまずい。どこかに隠れなければ。そう思った彼は商品棚の隅に身を隠した。だがばれるのも時間の問題だ。そう焦っていた時、彼の元にパーカーがあることに気づいた。それは誰が着ていてもおかしくない、没個性的な黒いパーカーだった。彼は慌ててそれを着て、急いで店の外に出ようとした。
 よし、彼女には見つからないだろう。そう思って店の自動ドアまで来たとき、彼はMと偶然顔を合わせてしまった。Mもまた、彼のクラスメイトの男だった。彼はMが嫌いではなかったが、Mの気弱で臆病なところを見ると、彼はとてもイライラした。しかし彼もまた臆病な人間であった。彼は自分のそんなところが嫌いだった。だからMを見ると、自分の情けなさというものを見せつけられているようで、それがとても嫌だった。Mは彼に気づくと、少し気まずそうに目を伏せ、何も言わずに店に入っていった。Mも、彼と似たような無彩色のパーカーを着ていた。
 彼は店から少し離れた駐車場にいた。彼の気持ちは暗かった。憤りと自責、少しの安堵が絶えず渦巻いていた。彼はその気持ちにどう向き合えばいいのか分からず、ただしんしんと雪が降る中で一人立ち尽くしていた。



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