第162期 #12

草を食べる社員たち

 抽選で髭剃りシェーバーが当たった。寒いのでストーブの前に座って髭を剃る。電源を押すと液晶に「Co」という文字が表示された。一通り剃り終えると、広大な大地のユーカリの木にしがみ付いていた。
 陽が沈み、昼とは打って変わって寒くなるのを覚悟した時に僕は自分の部屋に戻っていた。時計を見ると、針は九時半を指していた。髭を剃った時からちょうど十二時間が経っていた。

 僕の不思議なコアラ生活が始まった。毎回の場所は同じでなく、オーストラリア以外であったり、日本の動物園であったりした。

 木曜日は出勤時間が早かった。八時に家を出る。シェーバーの電源を押すが、液晶に「Co」の文字が表示されない。髭を剃り終えたが、ストーブの前に座ったままだった。仕様がなくスーツに着替えて会社に行った。会社の人達は別段何も変わりない様子だった。コアラの間も僕は会社で働いていたらしい。
 家に帰って、パソコンで「シェーバー コアラ」と検索した。理由がわかった。日本の朝七時にあたるグリニッジ標準時の二十二時は、日本の会社員が一斉に髭を剃り始める「コアララッシュ」の時間帯で、世界中の人々から忌み嫌われていた。一斉に日本人がコアラに押しかけるため、空いたコアラが足りないと、シェーバーが「コアラモード」にならない。

 僕がコアラの間、僕はどうしているのか気になって、髭を剃る前にビデオカメラをセットした。この日は自然保護区のコアラになった。
 部屋に戻って、録画した映像を確認すると、髭を剃り終えた僕は奇声を上げて体を激しく揺らし始めた。相当にストレスが溜まっているようで、頭を抱えたまま動かなくなると、嗚咽のようなものが聞こえてきた。観念したように支度を終えて部屋を出ていった。
 次の日から僕はせめてもと、出かける支度を全て済ませてから、ユーカリの葉を横に置いて髭を剃ることにした。

 コアラ情報サイトで、近く国内の動物園でコアラの赤ちゃんが生まれることがニュースになった。出産の直後、世界中のシェーバーで一つだけ「ECo」の文字が表示される。「エターナル:コアラモード」と呼ばれるもので、世界中の人々がその一枠を狙っていた。
 すぐ下のニュースではコアラの大群がオーストラリアから夜の海を渡って日本に押し寄せている様子を伝えていた。国内の動物園からも逃走し、街灯を壊して暴れ回っていた。僕の部屋もドアの開くおくぁwせdraftyふじこlp



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