第113期決勝時の投票状況です。11票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
14 | 或犬の一生 | 伊吹羊迷 | 4 |
12 | ミズナラメウロコタマフシ | 霧野楢人 | 3 |
13 | 夜、石を投げる | よこねな | 2 |
- | なし | 2 |
「ミズナラメウロコタマフシ」
不気味で気持ち悪い表現が上手く出来ている。主人公の気分にちゃんと共感できる作りがいい。
だが最後がどうも中途半端だ。個人的に最後の一行が不要だと思う。
主人公の常人離れした行為への予感が、妻の裏切りに対する報復というありがちな理由に薄められてしまってる気がする。
「夜、石を投げる」
丁寧な描写で幻想的な風景を生み出せているのがたまらない。
読んでいて目に見えるような小説をかけるのは憧れる。
ただ文章にはいくつか気になる部分があった。
誤字や一字下げ忘れなどがあるのも残念。改行空けにも少々頼りすぎているように思える。
「或犬の一生」
この作者は過去作より遥かに上達していて驚いた。
あっさりとした文章だが、すみずみまで気を使っているのがわかる。
アイデアやガジェットに頼らず、素朴な題材で物語として綺麗にまとめているのは見事。
今期はこれに投票させていただく。(この票の参照用リンク)
こまかい描写をきちんと積み上げることによって、あたたかみが構築されているように感じた。「彼はとろとろと眠りながら…」のくだりはとてもよいと思う。(この票の参照用リンク)
予選票で感想は既に書いてしまって特に無いのですが……、
そうそう、その後プーリーで画像検索したら本当にモップで驚きました。その上で再読すると、毛を梳かれる様子やとろとろ眠る様子がモップの姿で脳内再現されて、より立体感が増してよかったです。(この票の参照用リンク)
相当な筆力だ。(この票の参照用リンク)
#14
全体的にうまく纏まっているとは思うが、内容や文章がすっきりし過ぎていて、一つ一つのエピソードに重みが無いというか――あるいはさりげなさの演出なのかもしれないが、だとしたら描き方が雑だし、やっぱり平板な印象が残るかなあと思った。「モップ」というイメージをもっと深めたり、崩したり、拡げたりするような書き方の方が良かったのでは。
#13
ガチガチに武装した言葉で書いているような印象を受ける。冬の氷をイメージしたということなら、それもいいのかもしれないが、だとしたらちょっと押し付けがましいかな。
#12
「自己主張」に対する抵抗には興味を持てた。でも、「カタルシス」についてはほとんど丸投げではないか。抵抗するなら徹底的に、すべてのものに抵抗すべきだ。
(euReka)(この票の参照用リンク)
毎度のことながら今期決勝も非常にレベルが高く、散々迷った末、霧野楢人さんの『ミズナラメウロコタマフシ』に票を投じさせていただくことにしました。
・ミズナラメウロコタマフシ (霧野楢人)
クセの強い作品ですが、その独特の雰囲気と圧倒的な文章力、構成力に呑まれました。身近に潜む体験を主題にしていることで他人事とは思えないのが怖かったです。不安を煽る終わり方も良く、全体的にまとまった文章になっていると思います。いい作品でした。
・夜、石を投げる (よこねな)
最後の一文は蛇足だったのではないでしょうか。凍った池に石を投げるという着眼点、想像力を掻き立てる控えめな音の描写、じっと耳を澄ます人々の緊張感など評価すべき点は多かったのですが、どうも締まりが悪い文章になってしまっていると思います。面白い作品だからこそ、こういった細かい部分が目についてしまい残念でした。
・或犬の一生 (伊吹羊迷)
悩みました。犬の一生をテーマとして終盤では老衰し死ぬ場面まで描写しているにも関わらず、全体的に暗さがまったく感じられないのは素晴らしい点だと思いますし、プーリーという犬種を選んだことで物語に幅が生まれています。ですが、技巧的な面で特別目立った文章ではなかったので、良い話ではありますが、作品としては惜しい出来でした。(この票の参照用リンク)
どれも素敵でしたが、やっぱり最後はこちらに。
感想云々ではなくて、Feelingでしょうか。(この票の参照用リンク)
『夜、石を投げる』よこねな
興味をそそる音と、それを聞くために黙ったままの人々、冬の冷えた空気感が好みだった。冬が好きで、もうすぐ終わってしまうなと寂しく思っていたときにこの作品を読むことができて嬉しかった。
「何だか知らないが〜絶好の晩だ」は読むたびににやりとする。
『ミズナラメウロコタマフシ』霧野楢人
回想の盛り上がり方はよかったのに、終盤が曖昧になってしまっているように感じた。この流れで行けば、妻が身篭ったのが誰の子かわからないことよりも、それを確かめるために妻の腹を裂き子どもを殺しかねない自分が恐ろしいのではないか。
『或犬の一生』伊吹羊迷
正直、予選時にはあまり印象に残っていなかった。読み返してみて、弟とのエピソードと「鳥になることを考えたり〜」のくだりがいいなと思った。
ただ、これは好みの問題かもしれないが、その後の「悪くない」「いいじゃないか、もう一度くらい」で感じる妙な説教臭さ、道徳臭さが鼻について仕方がなかった。(この票の参照用リンク)
日常の陰にありそうな非日常にドキリとした。注目されるべきは、やはり石が氷の上をはねるシーンだろう。本当にそんな音が鳴るのか気になり、今から外に出て小さな池でも探したいような気分に駆られる。実際気になりすぎて、嘘だったらむしろちょっと安心するであろう域に達している私である。
なんてことを考えていたら、「メールを寄越した男」についての記述があって現実に引き戻されるわけで、これも「男はいなかった」とのことで不可解なのだが、現実的な不可解さに思いをはせるうちに非現実の余韻が浮かんできたため、やっぱり好印象だった。(予選票のコメントを一部修正)まぁ個人的にですがね。
そのほかの作品↓
「或犬の一生」
叙述が安定し、整っていて、読みやすい。かつ、「理屈」でなく「印象」で読ませる、という作者の能力を評価したい。ただ、「票を投じたい」と思わせる圧力を感じなかったため、今回は見送りたい。(正直、予選時から今に至ってもなお、この判断には迷いがあるのだが。)
「ミズナラメウロコタマフシ」
とりあえず「中学校へ向かう通学路の途中で見つけたそれを、僕ははじめ、これは実か、花の名残か、あるいは花の冬芽なのかな、と首をかしげながら思いを巡らした。」という文の不自然さはイケナイと思いました。(この票の参照用リンク)
或犬の一生(伊吹羊迷)
奇抜でもなんでもなくて、個性も感じられないなあと思っていたけど、決勝であらためて読み直してみたら案外良いものかなと感じ直したりした。なんだかのどかで。
平板な文章は内容の水っぽさをほどよく乾燥させてて良かったんじゃないのかなと。もちろん、そういうところでも起伏をまだまだもたせる余地はあったんじゃないのかなと思うけど。
ただ作品にとっぷりつかっても、動物を擬人化させて人間の感情の受皿として使う方法には納得がいかなかった。動物がそんな人間に都合のいいこと考えるんだろうかって。物語は人間を気持ちよくしてくれるけど、でもそれはあくまでやっぱり物語なんだよね、と思う。
最後の一行に「でもこれウソなんだぜ」とか付けくわえたくなるのがこういう作品だなと思った。物語はいいんだけどさ、と。
ルナールの博物誌もあわせて読みたい感じ。
夜、石を投げる(よこねな)
最初感じが良いなと思った。氷の上をはねる石がどんな音を鳴らすのかと想像力をかきたてられる。
ただ精読したら、だいたいこんなメール来たら不気味でしょうがないなと思った。もう2、3回書き直したら、もっと良くなるんだろうなと思う。素材としては決勝3作品では一等だと思う。
ミズナラメウロコタマフシ(霧野楢人)
決勝3作品みんなに言えるんだけど、文章というか言葉がどれもすごく普通。臭いがない感じがする。「脳裏」とか、ちょっと日常的ではない言葉がちらばってるだけって印象。
それがいいのか悪いのか分からんのだけど、物足りない感じがするのは確か。「寒さの厳しい朝」とかもちょっとおとなしすぎておもしろみがないなあ。
内容的にはいちばんまとまってたと思う。「それはある種のカタルシスだった---刹那息が苦しくなったことだけは覚えている。」の流れは丁寧だ。ただ乱歩読みなおしたいなって思ったりした。
なんだか全体的に練習問題の回答を読んでいるみたい。小説というのはもしかしたら、他人を蹴落とそうとか、言葉で世界をえぐり取ることによって自分を表現したいだとか、個性は誰しも持ちえうるという妄想の上でしか、そういう理不尽な欲望の延長にしかないものなのかなと思った。この世界を食い破ってやろうとか、ぜんぜんそういう野蛮な感じがちっともしない。だからつまらない。丁寧だ、やさしいな、感動するね、とか思っても、ぜんぜんびくんびくんこない。うわっつらだけだ。(この票の参照用リンク)
ミズナラメウロコタマフシ
芋虫を「白いデブ」の一言で終わらすのではなくて、「どこか不気味で且つ読み返すと赤ん坊の手足を思わせてしまうような描写」をしていれば、オチが生きるのではないかと。
夜、石を投げる
やはり最後の一文が不可解でした。それさえなければな、というところ。
或犬の一生
票を入れるならこれだなとは思う。ただ最後、うまくおさまってはいるけれど、普通にうまくおさめたという形なので、これが優勝かと聞かれると「うーん」。
どれも悪くないとは思うものの決め手に欠ける感じでした。(この票の参照用リンク)