第113期決勝時の「なし」票です(2票)。
或犬の一生(伊吹羊迷)
奇抜でもなんでもなくて、個性も感じられないなあと思っていたけど、決勝であらためて読み直してみたら案外良いものかなと感じ直したりした。なんだかのどかで。
平板な文章は内容の水っぽさをほどよく乾燥させてて良かったんじゃないのかなと。もちろん、そういうところでも起伏をまだまだもたせる余地はあったんじゃないのかなと思うけど。
ただ作品にとっぷりつかっても、動物を擬人化させて人間の感情の受皿として使う方法には納得がいかなかった。動物がそんな人間に都合のいいこと考えるんだろうかって。物語は人間を気持ちよくしてくれるけど、でもそれはあくまでやっぱり物語なんだよね、と思う。
最後の一行に「でもこれウソなんだぜ」とか付けくわえたくなるのがこういう作品だなと思った。物語はいいんだけどさ、と。
ルナールの博物誌もあわせて読みたい感じ。
夜、石を投げる(よこねな)
最初感じが良いなと思った。氷の上をはねる石がどんな音を鳴らすのかと想像力をかきたてられる。
ただ精読したら、だいたいこんなメール来たら不気味でしょうがないなと思った。もう2、3回書き直したら、もっと良くなるんだろうなと思う。素材としては決勝3作品では一等だと思う。
ミズナラメウロコタマフシ(霧野楢人)
決勝3作品みんなに言えるんだけど、文章というか言葉がどれもすごく普通。臭いがない感じがする。「脳裏」とか、ちょっと日常的ではない言葉がちらばってるだけって印象。
それがいいのか悪いのか分からんのだけど、物足りない感じがするのは確か。「寒さの厳しい朝」とかもちょっとおとなしすぎておもしろみがないなあ。
内容的にはいちばんまとまってたと思う。「それはある種のカタルシスだった---刹那息が苦しくなったことだけは覚えている。」の流れは丁寧だ。ただ乱歩読みなおしたいなって思ったりした。
なんだか全体的に練習問題の回答を読んでいるみたい。小説というのはもしかしたら、他人を蹴落とそうとか、言葉で世界をえぐり取ることによって自分を表現したいだとか、個性は誰しも持ちえうるという妄想の上でしか、そういう理不尽な欲望の延長にしかないものなのかなと思った。この世界を食い破ってやろうとか、ぜんぜんそういう野蛮な感じがちっともしない。だからつまらない。丁寧だ、やさしいな、感動するね、とか思っても、ぜんぜんびくんびくんこない。うわっつらだけだ。
参照用リンク: #date20120308-215246
ミズナラメウロコタマフシ
芋虫を「白いデブ」の一言で終わらすのではなくて、「どこか不気味で且つ読み返すと赤ん坊の手足を思わせてしまうような描写」をしていれば、オチが生きるのではないかと。
夜、石を投げる
やはり最後の一文が不可解でした。それさえなければな、というところ。
或犬の一生
票を入れるならこれだなとは思う。ただ最後、うまくおさまってはいるけれど、普通にうまくおさめたという形なので、これが優勝かと聞かれると「うーん」。
どれも悪くないとは思うものの決め手に欠ける感じでした。
参照用リンク: #date20120308-213426