第27期決勝時の投票状況です。12票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
10 | 冬が溶けるとき | 八海宵一 | 4 |
13 | 外神田ボーンヘッズ | 野郎海松 | 3 |
15 | 銀河観光社出張所NQ7711R | 朝野十字 | 3 |
- | なし | 2 |
今期はコレ。とにかく狙いが明確であり、描こうとしている世界も誤解のしようがないほど明白である。文章もシャープでキレキレ。つまり、コンパスなしで真円を描いた、みたいなキレキレさである。すばらしい。(この票の参照用リンク)
「冬が溶けるとき」作品独特の空気に惹かれました。ほんわりと不思議な電話のエピソードが、ストーブの湯気にけむる眠たい冬の部屋の空気に合っていると思います。
「銀河観光社出張所NQ7711R」、朝野十字さんの作品はいつも独特の世界観が表現されていて素敵だと思います。「私」がどういう人なのか、最後にもう少し描写が欲しかったと思います。
「外神田ボーンヘッズ」野郎海松さんはいつも違う設定で書いていながら独特の雰囲気をもっていて、その世界には惹きこまれてしまいます。ところで今回の話は、最初から最後まで「僕」だけの世界で、「彼女」の気持ちはあえて汲み取られないように描かれているのでしょうか。「僕」が死んでも彼女は救われないだろう、と私には思えてしまったので、それを意図したのかと思ったのですが、いかがでしょう。
今回は、説明無用の「冬が溶けるとき」を推します。(この票の参照用リンク)
冬は暖っかくていいよね。(この票の参照用リンク)
他の2作品はある意味長いものにも化けれる要素・下地があるのですが、それは裏を返せば既成のジャンル、レールに乗って話を進めているからであり、「冬が溶けるとき」は、いい意味でオンリーな作品だった。突っ込みドコを読者に与えるという点でも、心地よい後読感が残った。また、映像的にも強い作品。(この票の参照用リンク)
SFと現在では現在を、文学とエンタテイメントではエンタテイメントを選びます。
今回はそういう形です。どれも面白かったけれど、「これ」ってものがない気がした。「外神田」が一番アクが強かったかなと思う。(この票の参照用リンク)
残らず漫画のコマが浮かんだ。画は高橋しんがいいな。(この票の参照用リンク)
予選で推した作品がトップ通過した。
それで違う作品に票を投じるというのもなんだけど、
あらためて予選通過作を読むと1000字でこれだけの小説が
書ける事に驚いた。
大変おもしろかったです。(この票の参照用リンク)
決勝に残ったのはどれもきちんと読める作品でした。それをふまえた上で、
冬が溶ける時……結局「ふうん」という読後感しか残りませんでした。
外神田ボーンヘッズ……「こんな感じのが本当に好きな訳ないじゃないですよ。流行っているじゃないですか。習作じゃないですか。ははは」という感じがこの方の特徴で、良いところでもあるのですけれど、いい加減に、あなたの頭がいいのは解ったので本気で書いてください、という感じです。
銀河観光社出張所NQ7711R……この方の「俺はこんな感じのなんか別に嫌いって言うか大嫌いだ。ぶっ壊してやる」っていう感じが、わたしには何故かポジティブに感じられるのが不思議。まあ私が昔のコールドスリープから起きて合成コーヒーを飲むようなSFが好きだからかもしれませんが。(この票の参照用リンク)
タイプが違う「外神田ボーンヘッズ」と僅差だったが、「銀河観光社出張所NQ7711R」を選ぶ。理屈はあるが理由はない。「冬が溶けるとき」について考え、冬は季節だから溶けないと気付く。"冬は"にすれば作品が良くなる。 (めだか)(この票の参照用リンク)
「銀河観光...」では短編ならではの、想像させる部分、そうだったのかと思わせるような要素の突きつけ、そして読後に何らかの感慨を抱かせる部分など、よく盛り込まれていて魅力的だと思う。なので、この作品に一票。
「冬が溶けるとき」は、これまでの通念に囚われない作り方をしている点を評価する。けれども言わんとすることが掴みにくい点や短編ならではと言うべきの集約されているあるいは想像を掻き立てるというような要素が少なかったように思う。
「外神田ボーンヘッズ」は、「するべき事」が「わからない」から「分かっていた」に変わる部分が、もっと劇的に、あるいはもっと流れるように滑らかに移り変わっていったなら面白かったかもしれない。
(この票の参照用リンク)
どれもいまいち優勝として推せる作品ではないので。(この票の参照用リンク)
海とか河とか雨とか、「水」に関する主題や描写が、不思議と目につくのだったが、それはさておき、心惹かれる作品群とそうでない作品群との境界がはっきりしていた、という意味で、今期はいつもと違っていた。
全体として低調、との声をあちこちで聞くし、全体的には確かにそうかもしれない――なんてひとごとみたいに書いていますけれど、すみません、当方も次回はがんばります――が、個々について見れば、印象の際立った作品は少なからずあり、むしろ収穫と呼びたい気がする。
心の内を明かすと、予選にあたって掛け値なしの秀作と感じたのは、以下の五作だった。
戸田一樹さん「目覚め」、真央りりこさん「水際に立つ」、川野直己さん「水色」、市川さん「白象」、曠野反次郎さん「隠れ月夜」。
これらの作品が突出している・・・ との手応えを得て、自分としては「この中のいずれかが予選を通過した場合は、その作品を推す。いずれも予選に残らなかったなら、今回は『なし』とする」という心構えでスタートした。結果は残念なことになったが、いっそすがすがしい気がしないでもない。何より、自分として推したい小説がこれほどあった、という事実に満足すべきだと思う。「なし」に一票を投じることは原則としてしたくない、と思っていたが、今回ばかりは例外として自分を納得させることもできる。
予選にどの三作を選ぶか、かなり悩んだ。以下は予選票への補足として・・・
真央さん「水際に立つ」は、実に丁寧な道具立てと話の運び具合で、好編だと思う。短編一つ分の展開と感慨を1000字の掌編にこめた力量には、並々ならないものがある。一見さりげない作風だが、時間の処理といい、会話といい・・・ 良いです。
曠野さんの腐りかけた月には、いつも不吉な光が宿っている。その月が赤く染まるというのだから、死者が生者のような顔をして現れたって不思議はあるまい。死はあちら側に、それともこちら側に? 語り手の呟きは、まるで別役実の初期戯曲(「赤い月」!)のように寂しく、痛ましく、かつまた洒脱さも失っていない。
戸田さんの作品には、登場する亀の描写に、節度、センスを感じた。適度な感傷と、その感傷を押さえる筆致、距離のとり方、巧みである。そして胸の締めつけられるような読後感がある。今期、戸田さんという書き手を新たに見出したのが、一番の収穫だった。
さて、五作の中でもっとも刺激的だったのは、川野さんの「水色」だった。単に風景を描写するのではなく、ひとつの場所として、その場所に棲む人間との関係ともども描こうとする、その志の高さを支持したいと思う。予選票ではスティーヴ・エリクソンまで持ち出してしまったし、久々にマジック・リアリズムという言葉を思い浮かべもしたが、ともあれ、いろんな切り口であれこれと語ってみたい小説だった。
川野さんの小説が言葉を誘発する小説だとすると、市川さんの「白象」は、その逆――口をつぐみ、耳をそばだて、沈黙の中で話者の言葉を聞きとろうとするような、そういう姿勢へと読者を誘う声であり、描写であると感じた。作を重ねるごとに世界を広げ、かつ深化させてきたこの書き手の、早いといえばあまりにも早い完成に、今はただ粛然として向き合うばかりだ。
決勝に残った三作は、これら五作に比べると、何かが、決定的に、もの足りない。その何かが何なのか、自分自身に問いかけつつ、第28期に向けて、しばし黙考の中に沈むことにする。(でんでん)
(この票の参照用リンク)