第27期 #13
彼女のために何かしたかった。でも彼女が僕に何をして欲しいのか、さっぱり分からなかった。僕は彼女のことを何も知らない。名前も、住所も、何をしているかも。
僕はテレビを見まくった。コンビニ強盗、わいせつ教師、放火巡査、そういった連中をかたはしから駆除してやろうと思った。それが彼女のために僕ができるただひとつのことだったから。僕は街に出た。
しつこいポン引きをビルとビルの間に引きずり込み、半殺しにした。ゲームセンターの前にたむろしていた高校生の頭をつかんで、ひとりひとりクレーンゲームの中へ叩きこんだ。立小便していたサラリーマンを突き飛ばして、電柱とディープキスさせた。絡んでくるチンピラはスタンガンとアーミーナイフで昏らせた。
そうやって、僕はいつしか夜の外神田で知らぬ者なき有名人になっていた。仲間もできた。彼らは――砂糖にたかる蟻のように――増え続け、ついには二〇名を超えるチームになった。それが外神田ボーンヘッズだ。
外神田ボーンヘッズは秋葉原の電脳オタクと結びつき、やがて神田一帯に強固な活動基盤を築いた。電脳オタクの高校生がネットで資金を荒稼ぎし、組織はさらに膨れ上がった。
彼女のために何かしたかった。でも僕が彼女に何をしてやれるのか、やっぱり分からなかった。僕は彼女のことを何も知らない。名前も、住所も、何をしているかも。だから仲間たちが彼女をまわしていることなんか、気がつきもしなかった。僕は、裸にされ鉄筋の梁に縛られモデルガンの的にされ、組織の末端のくずどもに代わる代わる突っ込まれている彼女を発見した。それは間違いなく彼女だった。そして――。
「日本橋を中心に暴行障害、詐欺、売春斡旋等を繰り返していた大規模な少年犯罪組織が、内部の確執から大きな抗争に至り、多数の重軽傷者を出しました。警察は組織の全容解明を急いでいます」
テレビ帝都 トワイライト・ニュース
「晴海埠頭で男性(21)失血死――日本橋の抗争事件に関与か」
「拉致監禁の少女(19)は無事保護、消耗著しく」
朝一新聞 社会面
――僕は晴海のコンテナエリアに潜伏していた。捕まるのは時間の問題だ。でももうそんなことは関係なかった。僕の隣には彼女がいた。彼女のために何をしたら良いか、僕にははっきりと分かっていた。ポケットの中のアーミーナイフをまさぐり、僕は彼女に尋ねた。
「寒い?」
「寒い」
彼女は答えた。僕は頷いた。