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第27期決勝時の「なし」票です(2票)。

2004年11月22日 20時59分47秒

どれもいまいち優勝として推せる作品ではないので。

参照用リンク: #date20041122-205947

2004年11月9日 19時44分7秒

 海とか河とか雨とか、「水」に関する主題や描写が、不思議と目につくのだったが、それはさておき、心惹かれる作品群とそうでない作品群との境界がはっきりしていた、という意味で、今期はいつもと違っていた。
 全体として低調、との声をあちこちで聞くし、全体的には確かにそうかもしれない――なんてひとごとみたいに書いていますけれど、すみません、当方も次回はがんばります――が、個々について見れば、印象の際立った作品は少なからずあり、むしろ収穫と呼びたい気がする。
 心の内を明かすと、予選にあたって掛け値なしの秀作と感じたのは、以下の五作だった。
 戸田一樹さん「目覚め」、真央りりこさん「水際に立つ」、川野直己さん「水色」、市川さん「白象」、曠野反次郎さん「隠れ月夜」。
 これらの作品が突出している・・・ との手応えを得て、自分としては「この中のいずれかが予選を通過した場合は、その作品を推す。いずれも予選に残らなかったなら、今回は『なし』とする」という心構えでスタートした。結果は残念なことになったが、いっそすがすがしい気がしないでもない。何より、自分として推したい小説がこれほどあった、という事実に満足すべきだと思う。「なし」に一票を投じることは原則としてしたくない、と思っていたが、今回ばかりは例外として自分を納得させることもできる。
 予選にどの三作を選ぶか、かなり悩んだ。以下は予選票への補足として・・・
 真央さん「水際に立つ」は、実に丁寧な道具立てと話の運び具合で、好編だと思う。短編一つ分の展開と感慨を1000字の掌編にこめた力量には、並々ならないものがある。一見さりげない作風だが、時間の処理といい、会話といい・・・ 良いです。
 曠野さんの腐りかけた月には、いつも不吉な光が宿っている。その月が赤く染まるというのだから、死者が生者のような顔をして現れたって不思議はあるまい。死はあちら側に、それともこちら側に? 語り手の呟きは、まるで別役実の初期戯曲(「赤い月」!)のように寂しく、痛ましく、かつまた洒脱さも失っていない。
 戸田さんの作品には、登場する亀の描写に、節度、センスを感じた。適度な感傷と、その感傷を押さえる筆致、距離のとり方、巧みである。そして胸の締めつけられるような読後感がある。今期、戸田さんという書き手を新たに見出したのが、一番の収穫だった。
 さて、五作の中でもっとも刺激的だったのは、川野さんの「水色」だった。単に風景を描写するのではなく、ひとつの場所として、その場所に棲む人間との関係ともども描こうとする、その志の高さを支持したいと思う。予選票ではスティーヴ・エリクソンまで持ち出してしまったし、久々にマジック・リアリズムという言葉を思い浮かべもしたが、ともあれ、いろんな切り口であれこれと語ってみたい小説だった。
 川野さんの小説が言葉を誘発する小説だとすると、市川さんの「白象」は、その逆――口をつぐみ、耳をそばだて、沈黙の中で話者の言葉を聞きとろうとするような、そういう姿勢へと読者を誘う声であり、描写であると感じた。作を重ねるごとに世界を広げ、かつ深化させてきたこの書き手の、早いといえばあまりにも早い完成に、今はただ粛然として向き合うばかりだ。
 決勝に残った三作は、これら五作に比べると、何かが、決定的に、もの足りない。その何かが何なのか、自分自身に問いかけつつ、第28期に向けて、しばし黙考の中に沈むことにする。(でんでん)

参照用リンク: #date20041109-194407


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