全投票一覧(日時順)
第263期予選時の投票状況です。5人より13票を頂きました。
2024年8月31日 11時52分11秒
- 推薦作品
- ノートさん(蘇泉)
- 感想
- 1段落目からタイトルである「ノートさん」が(文字として)登場し、2段落目にはタイトルの意味が明らかにされ、3段落目でもう「ノートさん」に関する情報は(語り手が勤務するカフェに来なくなった理由を除いて)すべて与えられます。つまり4段落目以降は、どうしてカフェに来なくなったのか、という謎に(読者は)集中できるというわけです。
4段落目の内容は、1段落目の内容(会話)を地の文で説明し直したものになっており、いきなり4段落目から読んでもその後の物語を理解することができますが、では、1段落目から3段落目を読まなくてもよいということはありません。それは、この3つの段落が、5段落目以降に影響を与えているからです。
さて、本作は「私」を語り手とした一人称視点で書かれています。この、一人称視点であるということが、前段で指摘した、3つの段落が5段落目以降に及ぼす影響に関係しています。つまり、この3つの段落は「ノートさん」に関する単純な情報ではなく、「私」が把握している「ノートさん」の情報、という情報になっているのです。であればこそ、5段落目以降、特に「私」が「ノートさん」に対して「ウチに来ない」理由を詰問する展開が不自然にならないのです(試しに、本作を三人称に変更してみると違いがよくわかるかと思います)。
(三浦)(この票の参照用リンク)
- 推薦作品
- もう恋なんてしない(夏目ジウ)
- 感想
- まず、構成を見ていきます。
(1)1行目から3行目
「僕」が「君」からLINEのメッセージを受け取った場面。「僕」が、「君」の失恋を知った衝撃を語る。
(2)4行目から23行目
神保町にある純喫茶店『生きる』を舞台に、「僕」と「君」が、「君」の失恋について話す。
(2-ア)17行目から21行目
「バイト先の先輩」に関する「君」の話と「僕」の想像が語られる。
(3)24行目から26行目
注文していないことに気づいた「僕」が、「店員」の様子を気にする。
(1)と(2)と(3)は現在の話ですが、(2-ア)は現在でありながら「君」が語るのは過去の出来事です。(時間の)構成に注目した場合、(2-ア)が際立っており、ここが山場ということになります。
この山場には「デートしている時も、俺の目を見て話しを聴いてくれた」という「君」と「バイト先の先輩」との話が出てきます。この「目を見て話しを聴いてくれた」は、その少し前に出てきた「僕」の語り「こんなにも君と目があったのは初めてかもしれない」を想起させます。注目すべきは、「デートしている時も、俺の目を見て話しを聴いてくれた」と聞いた時の「僕」は、「別に普通じゃないのか」と思うのに対して、「君」が「僕」の目を見て話すことについては、「こんなにも君と目があったのは初めてかもしれない」と驚いてみせている点です。
なぜ驚くのでしょう。その理由として「あれだけ逡巡した僕の君への想い」に注目してみます。(ここの文意だけなら)どうやら「僕」は、「君」を恋しく思っているようです。その線で考えると、「デートしたこと自体羨ましかった」というところも、この直後にある「年上女性で優しいって男なら誰でも憧れる」に単純に繋がるのではなく、「君」とデートできることが羨ましい、という文意になるでしょう。しかしながら、「僕」が「君」に好意を寄せている確証となるものは見当たらず、誤読かもしれません。しかし、この作品は一人称の語りで書かれていますから、「僕」の「逡巡」が入り混ざった表現になっているとも考えられるでしょう。
さて、「僕」と「君」と「バイト先の先輩」が登場する物語に、終盤になって唐突に「年配店員女性」が登場します。この「店員」は、「奥から僕たちを覗き見」て「目を赤く腫らして」いました。その理由として、すぐに「年配女性店員の明らかなまでの微妙な雰囲気は君の恋みたく盲目で背筋が凍るほどに淋しく、また刹那さが漂っていた」と説明されます。整理すると、「盲目」的で、「淋し」そうで、切なそうな(「刹那さ」は誤字と考えて)「雰囲気」を「店員」が漂わせていた、ということになります。しかし、単に「奥から僕たちを覗き見」ていただけの「店員」が、どうしてこのような態度を見せるのでしょう。
「僕」と「君」が会話している純喫茶『生きる』は、「君」が待ち合わせに指定した店でした。入ったことがない店を待ち合わせ場所にはなかなかしないでしょうから、「君」が『生きる』に来るのは初めてではないと考えられます。
続いて、「バイト先の優しい先輩」について考えます。先輩と言ってもアルバイト先ですから「君」よりも年上とは限りませんが、年下と考えるよりは、年上と考える方が自然だと思われます。
さて、ここからは手掛かりがないので強引に進めることになります。『生きる』は「君」のアルバイト先だと考えてみましょう。そうすると、「店員」は「君」と顔見知りになりますから、失意の「君」を見た「店員」が「目を赤く腫らして」いたのも無理のないことのように思えてきませんか。さらに強引に、この「店員」こそが、「バイト先の優しい先輩」だと考えてみてはどうでしょう。その方が、「頭の中では優しい年上の女性を想像していた」「年上女性で優しいって男なら誰でも憧れる。悩んだら甘えられるし、困ったら食事だって奢ってくれるだろうし」という「僕」の語りが、構成上、有効だと思いませんか。
(三浦)(この票の参照用リンク)
- 推薦作品
- 夜に見る夢(たなかなつみ)
- 感想
- 「おまえ」「あんた」と呼び合う二人のやり取りが、段落分けされずに書かれています(以降、「おまえ」と呼ばれている者を「おまえ」、「あんた」と呼ばれている者を「あんた」と表記します)。
読者は「夜に見る夢」というタイトルから、夢の話なのだろうと考えながら読み進めることになります。話者が替わっても(視点は終始「あんた」ですが)改行されずに文章が続いていくのは、はっきりしない、もやもやとした夢の雰囲気を表現しているように感じます。
しかし、「寝ていたところを夜の夜中に起こされてはかなわない」という「あんた」の台詞が出てきたところで、どうやら夢の中の話ではなさそうだとわかります。と同時に、改行されずに文章が続いていくのは、「あんた」が感じる寝苦しさのようなものを表現しているのかなと考えます。そして、その寝苦しさの原因は、去るように言っても「あんた」から離れようとしない「おまえ」にあるのかなと考えます。
その後、「いつになったらもうこの世にないその身に気付くのか。おまえの手にあるものも装束も全部、黄泉路のためにおまえの家族が用意してくれたものだ」という「あんた」の台詞によって、「おまえ」の正体が死霊のようなものだと明らかになりますが、読者に大きな驚きはありません。それは、そこに至るまでの「あんた」の語り口が、「おまえ」の来訪は異常な出来事ではなく、日常的な出来事であることを示しているからです。
その直前、読者は、「おまえ」の次の台詞を読んでいます。
「ただちょっとあんたの顔が見たかったのだ、あんたのそばにいたかったのだ、こういう真っ暗な夜は息が止まる心地がする、自分以外の皆が死に絶えて、自分ばかりが胸苦しい思いで夜をさまよっている気がする、ただあんたが寝ているそばにいたかったのだ、あんたの安らかな寝息を聞いていたかったのだ」
「あんたがそうして元気に気を吐いてくれるから、自分も形のない煙などではなく、しっかりとここにいる気がする、それでこれから先だってずっと共にいるのだ、あんたもそう思うだろ?」
この台詞を思い返して(「おまえ」が死霊であることを知った)読者が感じることを、最後に「あんた」が代弁しています。
「今夜こそもうここへは来ず、行くべきところへ向かえよ。そう願いながら、来ないなら来ないできっとどうしようもなく虚しい心持ちになるのだろう」
そして、最後の最後に「あんた」は「おまえの夢」を見始めるのですが、タイトルにもなっている「夜に見る夢」の内容は、とうとう読者には明らかにされません。しかし、きっと、悲しくおどろおどろしい内容ではなく、幾分かは幸せな楽しい内容なのではないか、と読者が思える、そういう「おまえ」と「あんた」のやり取りになっていると思います。
(三浦)(この票の参照用リンク)
2024年8月30日 22時49分45秒
- 推薦作品
- ノートさん(蘇泉)
- 感想
- 自分が行く喫茶店を変えることに関しては、お客さんに完全に権利があり、自由があるところが、勢いで立場が逆転しているのが面白い。そして、最終的に二股すればいいという、倫理的におかしい(この場合はおかしくはない)ことを強いられる倒錯が楽しかった。(この票の参照用リンク)
- 推薦作品
- 哀れなる者たち(三浦)
- 感想
- 少し直情的な芸能人の話かなと思いきや、中盤から現実なのか夢なのかわからなくなる。たぶん夢。
哀れなるものたちも、哀れなるものではないはずの私も等しく心臓が破壊されるのは、私が哀れなるものを蔑みながら、自分自身も哀れなるものだと思っていたからだろうか。(この票の参照用リンク)
- 推薦作品
- 夜に見る夢(たなかなつみ)
- 感想
- 「おまえ」はもう死んでいていわゆる幽霊なんだろう。
幽霊の片思いかと思いきや、語り手もまた、「おまえ」の夢を見、「おまえ」が来ないと虚しい心持になる。
煙のように薄い、もういなくなってしまった人間との感情のやりとりが、語られない生前の関係性を浮かび上がらせる。うまい。(この票の参照用リンク)
2024年8月20日 17時45分15秒
- 推薦作品
- ノートさん(蘇泉)
- 感想
- 自分も昔よく行く店があって、顔も知られていたと思うのだけど、私生活でいろいろあって、あるときからぜんぜん行かなくなったという経験がある。
店員からすると、なぜ来なくなったのかと想像したりするのだろうなと考えると、そこから何か小さな物語が生まれる予感がしてくる。
この作品では、語り手である主人公が、かつての客に、強引にその「物語」のようなものを聞き出そうとするのが面白いなと思った。
そういうやり方もあるんだなと。(この票の参照用リンク)
- 推薦作品
- 夜に見る夢(たなかなつみ)
- 感想
- 「おまえ」とは幽霊のような存在なのか。
語り手と「おまえ」の関係は家族ではないようだし、語り手は「おまえ」を鬱陶しく思っているようなのに、なぜ「おまえ」は語り手のそばに居たがるのか。
いろいろと分からないことが多いが、「おまえ」のどうしようもない寂しさだけが確かに存在していて、暗闇の中でうごめいているような印象を受ける。
そして最後に語り手は夢の中でも「おまえ」を見ていて、現実なのか幻想なのか分からないような示唆をする終わり方も悪くないなと思った。(この票の参照用リンク)
2024年8月20日 13時15分38秒
- 推薦作品
- アウラカチューレ(euReka)
- 感想
- なんとなくシュールで、なんとなく物語性があり、なんとなく納得させられそうで、やっぱりなんとなく分からない、良い雰囲気の作品でした。(この票の参照用リンク)
- 推薦作品
- 夜に見る夢(たなかなつみ)
- 感想
- 体験する人は体験するようですね。現世(うつしよ)と幽界の狭間を垣間見た人の優しさが感じられました。
『ノートさん』は、まぁ筋は分からなくはありませんが、オチも分からなくはありませんが、もう一ひねりが欲しかったです。
『もう恋なんてしない』もよくある話で、よくある以上の掘り下げを期待して読んでいただけに、それがなくて残念でした。”×”は普通に漢字で表記できるのですが、なぜ特殊表記にしたのか、悪目立ちしてしまいましたね。
『哀れなる者たち』は中後半がダイナミックに盛り上がっただけに、前半をもう少し短めにさらっと流して中後半に描写の字数をもっと多めに割いて欲しかったと思います。シュールさは良かったのですが、担架に乗せられていても足は動かせたんですね。(この票の参照用リンク)
2024年8月15日 13時38分46秒
- 推薦作品
- ノートさん(蘇泉)
- 感想
- お店の常連がいつの間にかいなくなるというよくある光景。気にすることもないと思うが、ノートさんの他の店の居心地良さもなんとなくわかる。他の店まで乗り込まれて、非難される近さは怖い。そこを含めて「二股」という語を面白がれるかが鍵なのかな。(この票の参照用リンク)
- 推薦作品
- 哀れなる者たち(三浦)
- 感想
- 前半の夢想的で見下し調の語りが最後にきいてくる。「哀れなる者たち」と語り手の差は、「愛」を知るか「項目」に重きを置くか否か。神(円盤)はその差異を気にせず、同一に心臓を狙い、強い。「異文化」の見せ方に悪意が見える違和感も物語のうちか。(この票の参照用リンク)
- 推薦作品
- アウラカチューレ(euReka)
- 感想
- 厳格な身分差や暴力、「下民」への見下しのある世界が当然に描かれる異世界転生もの? アウラ王の周辺事情も何も語られず物語が過ぎ、書き割り的な作り物の別世界を思わせる。王の討伐隊も「正義」ではなく、「元居た世界」はもっと酷いらしく、安住の地は困難だ。(この票の参照用リンク)
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