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第263期予選時の、#3もう恋なんてしない(夏目ジウ)への投票です(1票)。

2024年8月31日 11時52分11秒

 まず、構成を見ていきます。

(1)1行目から3行目
 「僕」が「君」からLINEのメッセージを受け取った場面。「僕」が、「君」の失恋を知った衝撃を語る。

(2)4行目から23行目
 神保町にある純喫茶店『生きる』を舞台に、「僕」と「君」が、「君」の失恋について話す。
 (2-ア)17行目から21行目
  「バイト先の先輩」に関する「君」の話と「僕」の想像が語られる。

(3)24行目から26行目
 注文していないことに気づいた「僕」が、「店員」の様子を気にする。

 (1)と(2)と(3)は現在の話ですが、(2-ア)は現在でありながら「君」が語るのは過去の出来事です。(時間の)構成に注目した場合、(2-ア)が際立っており、ここが山場ということになります。
 この山場には「デートしている時も、俺の目を見て話しを聴いてくれた」という「君」と「バイト先の先輩」との話が出てきます。この「目を見て話しを聴いてくれた」は、その少し前に出てきた「僕」の語り「こんなにも君と目があったのは初めてかもしれない」を想起させます。注目すべきは、「デートしている時も、俺の目を見て話しを聴いてくれた」と聞いた時の「僕」は、「別に普通じゃないのか」と思うのに対して、「君」が「僕」の目を見て話すことについては、「こんなにも君と目があったのは初めてかもしれない」と驚いてみせている点です。
 なぜ驚くのでしょう。その理由として「あれだけ逡巡した僕の君への想い」に注目してみます。(ここの文意だけなら)どうやら「僕」は、「君」を恋しく思っているようです。その線で考えると、「デートしたこと自体羨ましかった」というところも、この直後にある「年上女性で優しいって男なら誰でも憧れる」に単純に繋がるのではなく、「君」とデートできることが羨ましい、という文意になるでしょう。しかしながら、「僕」が「君」に好意を寄せている確証となるものは見当たらず、誤読かもしれません。しかし、この作品は一人称の語りで書かれていますから、「僕」の「逡巡」が入り混ざった表現になっているとも考えられるでしょう。
 さて、「僕」と「君」と「バイト先の先輩」が登場する物語に、終盤になって唐突に「年配店員女性」が登場します。この「店員」は、「奥から僕たちを覗き見」て「目を赤く腫らして」いました。その理由として、すぐに「年配女性店員の明らかなまでの微妙な雰囲気は君の恋みたく盲目で背筋が凍るほどに淋しく、また刹那さが漂っていた」と説明されます。整理すると、「盲目」的で、「淋し」そうで、切なそうな(「刹那さ」は誤字と考えて)「雰囲気」を「店員」が漂わせていた、ということになります。しかし、単に「奥から僕たちを覗き見」ていただけの「店員」が、どうしてこのような態度を見せるのでしょう。
 「僕」と「君」が会話している純喫茶『生きる』は、「君」が待ち合わせに指定した店でした。入ったことがない店を待ち合わせ場所にはなかなかしないでしょうから、「君」が『生きる』に来るのは初めてではないと考えられます。
 続いて、「バイト先の優しい先輩」について考えます。先輩と言ってもアルバイト先ですから「君」よりも年上とは限りませんが、年下と考えるよりは、年上と考える方が自然だと思われます。
 さて、ここからは手掛かりがないので強引に進めることになります。『生きる』は「君」のアルバイト先だと考えてみましょう。そうすると、「店員」は「君」と顔見知りになりますから、失意の「君」を見た「店員」が「目を赤く腫らして」いたのも無理のないことのように思えてきませんか。さらに強引に、この「店員」こそが、「バイト先の優しい先輩」だと考えてみてはどうでしょう。その方が、「頭の中では優しい年上の女性を想像していた」「年上女性で優しいって男なら誰でも憧れる。悩んだら甘えられるし、困ったら食事だって奢ってくれるだろうし」という「僕」の語りが、構成上、有効だと思いませんか。

(三浦)

参照用リンク: #date20240831-115211


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