第263期 #5

夜に見る夢

 おまえはいつも夜中にやって来る。こちらが寝入っているところに平気で近づき、がさごそがさごそと喧しい。知らぬふりで寝続ければよいものだが、いつまで経ってもがさごそが止まらない。頭重で鬱陶しく思いながら、なんだいったいどうしたんだと、叱りつけるように荒い声を出す。おまえは一向に気にしない様子で、別に何でも、と口の中でぼそぼそとこたえる。何でもないのであればとっとと行け、寝ていたところを夜の夜中に起こされてはかなわない、こちらは明日も仕事があるのだ。さらに声を荒らげてそう告げるが、やはり意に介さぬ様子で、寝ていてくれてまったく構わないと、当然のことのようにこたえる。こちらの眉間には大きく皺が寄る。おまえはいつもそう言うがな、おまえにとってはどうでもよいことが、こちらにとっては重荷になるのだ、嫌がらせでないのなら、一刻も早く行ってしまえ。寝返りを打ちながら呪詛のように言葉を吐くが、やはりこちらの面倒に気付く様子はない。別になんということはない、ただちょっとあんたの顔が見たかったのだ、あんたのそばにいたかったのだ、こういう真っ暗な夜は息が止まる心地がする、自分以外の皆が死に絶えて、自分ばかりが胸苦しい思いで夜をさまよっている気がする、ただあんたが寝ているそばにいたかったのだ、あんたの安らかな寝息を聞いていたかったのだ。そんなことをぼそぼそとぼやき続けるので、ため息しか出ない。おまえのせいで目が覚めちまったし、聞きたがっていた寝息はもう聞けないのだ。おまえは、ふっ、ふっ、と笑いながら言う。あんたがそうして元気に気を吐いてくれるから、自分も形のない煙などではなく、しっかりとここにいる気がする、それでこれから先だってずっと共にいるのだ、あんたもそう思うだろ? おまえが布団のそばでずっとがさごそし続けているのを、こちらはただ見守るしかない。いつになったらもうこの世にないその身に気付くのか。おまえの手にあるものも装束も全部、黄泉路のためにおまえの家族が用意してくれたものだ。けれども途端に重くなる口がそれだけは伝えられない。おまえは明け方までのらくらとそばに居続け、夜明けとともに白々と消えていく。今夜こそもうここへは来ず、行くべきところへ向かえよ。そう願いながら、来ないなら来ないできっとどうしようもなく虚しい心持ちになるのだろうと、重い頭でやっとまた寝入りながら、ただおまえの夢を見る。



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