第263期 #1
「ノートさん、最近来ないね。」
「うん、来ないですね。」
ノートさんはこのカフェの常連さんだった。去年から週3回のペースでこのカフェに来ていて、いつもノートパソコンで作業していたので、彼につけたあだ名は「ノートさん」だ。彼は大体2、3時間滞在するが、長くいるときは2杯目も注文する。そんな姿をよく見かけた。
ノートさんは我々店員にも優しかった。話を聞くと、受験用の動画を作ってネットにアップするのが生業らしい。だからカフェで作業するのかもしれない。羨ましい仕事だなと思った。たまに小さいトラブルがあっても、ノートさんは一度も怒ったことがなかった。
しかし、今年の夏になってから、ノートさんは一度も来ていない。
引っ越ししたのかな、仕事を変えたのかなと、店員の間では話題になったが、本人が来ないから、別に探して理由を聞くことまではせず、そのまま日々が過ぎていった。
ところが、ある日、同じ町の少し離れたところにあるカフェに友達と会いに行ったとき、「あれ、この人、姿が懐かしい!」と思ったら、ノートさんがそのカフェで作業しているのを目撃した!
私は何も考えず、急いでノートさんのところにダッシュして、ズバリ聞いた。「なんでウチに来ないんですか!」
ノートさんは大びっくりして、敵に見つけられたうさぎみたいな顔をして、「ごめんなさい!!」と叫んだ。
私は追い詰めるようにして、「だから、なんで来ないんですか!」とさらに問い詰めた。
ノートさんは、悪いことをした生徒が先生に怒られているような顔をして、こう説明した。「最初は偶然この店を見つけて、コーヒーが美味しいと思って、数回通ったんです。それでしばらくあなた達の店に行ってなくて、行ったらしばらく来てない理由を説明する必要があると思って、なんか浮気してるみたいで、行くのが怖くなってしまって……それでだんだん行けなくなり、結局店の前を通ることすら怖くなってしまったんです。」
こう聞いた私は、ノートさんの目を見つめて、「二股すればいいじゃない!」と言った。