第235期決勝時の投票状況です。8票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
3 | 二月十四日 | 吟硝子 | 3 |
8 | 電子海 | Y.田中 崖 | 2 |
6 | はぐれ島 | 志菩龍彦 | 1 |
7 | そういうこと | わがまま娘 | 1 |
9 | 子どもを買って育てる | euReka | 1 |
【二月十四日】
初めは死別した夫婦の女性目線の物語のように感じたが、
「あのひと」も「わたし」も彼や彼女などの性別を表すような表現はされておらず、
異性間・同性間どちらの解釈でも受け取れる作品だと感じた。
また、「手を合わせた」とあるため少し強引な解釈であるかもしれないが
わたしが亡くなっていると決定づける表現もされていないのではないかと思え、
短編作品としてしっかり完結させてありながらも
読み返せば読み返す程この二人の関係性を想像することができる作品だと思った。
【そういうこと】
口調等から初めは男性同士の話なのかと感じたが、
こちらも性別を決定づける表現はされておらず男女間の関係でも成り立つ話なのかなと思った。
『距離を置いてみたら気分が変わる』
『毎日見てはウジウジしてる』
『見ない方がいい』
と言われてからのヤツの行動や、
語り手の「どういうこと?」に対して作品名の「そういうこと」が皮肉めいていて
この後の二人の関係がどうなっていくのか続きが気になる作品だと思った。
部屋の描写だけ同棲しているような描写が多かったが
後半で「部屋に寄ったら玄関に鍵がかかっていた」とあったりしたため
隣室で入り浸れるような関係性なのか?とも解釈でき
ひとつひとつの言い回しなどは素敵だったがやや分かりにくいように思えた。
どの作品も素敵でしたが、
個人的には上記2作品が読みやすくも想像力をかきたてられて面白い作品だと思いました。(この票の参照用リンク)
バレンタインデーがそんなに大きな意味を持たないのがつつましくて交換が持てる。一昔前に比べてパートナーにチョコを贈る風習も廃れてきていて、物語にバレンタインデーが登場してもそれほど引っ張られないのがいい。(この票の参照用リンク)
今回はこの作品がピカイチでした。他に何も言いようがありません。
『電子海』も良かったのですが、運び屋と取り立て屋の関係が今ひとつ分かり辛かったのが残念でした。作り手はあの部屋を、出ようと思ったら出られたのでしょうか?
『あと6センチの夜』も面白かったのですが、ややまとまりを欠くように感じられたのが残念でした。6センチが語り手と先輩の身長差なら女性は背が高すぎますし、あんな闊達な先輩が殺されるほどの悪意を抱かれることにも、その悪意を殺されるまで気づけないことにも、やや違和感を覚えました。(この票の参照用リンク)
迷ったけれど、情景が思い浮かんで、開放感が感じられたこの作品を推薦します。
ガンガン肉体で闘っていたマトリックスもそうだけれど、全てが電子の海の世界観こそ、たばこやおっさんといった肉感が強調されますね。惜しむらくは、世界観や主人公を駆動する感覚について、テンプレを超えた新鮮さのようなものが欲しかったです。
「二月十四日」もよかったです。ただ何度か読むとあらさがしのようになってしまいました。もし語り手が亡くなっていたとしたら、日付を超えたら喧嘩をしない、を守り続けるってどういうことだろうとか、仏壇?に手を合わせるというのがこれまでの雰囲気とあってない気がするとか。情景が一変する、というのはそうなのだけど、生と死の逆転以外の効果はいらないなと思ってしまう。ミントやラム肉やチョコレートの雰囲気が良かったので、そう思うだけかもしれません。(この票の参照用リンク)
#8 「電子海」を推薦。
アラがあるとしたら「中肉中背」の情報が要らなくて、二人が立ってるのか座ってるのか、灰皿はどんな形状か、皿か、スタンドかの方が想像に必要。書くならば、主人公より高いのか低いのかだけでいいかな。
地味な現実世界を厚めに描写したあと、世界観を二転三転させて、世界に風穴を開けていて気持ちよい。その映像が派手だが、想像しやすい景色をチョイスしているので、エンタメに留まっていて、芸術的すぎないので読みやすい。
#3 「二月十四日」
語り手の女像があまり好みでない。赤い薔薇、セロファン、一輪、ラム肉、ミントソース、チョコの指輪。あまりモテない女の理想の男像に見えちゃう。昭和の少女漫画的な理想の恋人をしかも殺してちょっと自分と彼を美化してるような印象。でも、好き嫌いの評価ができるくらい、作者の世界が綿密に文章として存在しているのだと思う。
#4 「今田耕司」
多分これは今田耕司が代替可能だと思う。この文章の好感度が不思議と高いのは、取り合わせのバランスで笑わせようとしてる作者のサービス精神が伝わってくるからだと思う。
#5 「あと6センチの夜」
主人公の恋心を読み手に把握させただけじゃ少し物足りない。
#7 「そういうこと」
ヤツの恋心を読み手に把握させただけじゃ物足りない。
#9 「子どもを買って育てる」
予選の感想にもあったが、子育てへの過剰なプレッシャーから、少し解放するような効果を持つ創作物語かもしれない。(この票の参照用リンク)
予選の感想で一通り書いてしまって、再読しても印象は変わらなかった。比較的地味に感じるのは淡々とした筆致のなせる技で、じわじわと膨らむ違和感、重さを増していく恐怖感を生んでいる。
時計には時を刻むもの、歴史を刻むもの、確固たる指針のイメージがあり、異様な状況におけるリアルさが裏づけられている。その上、ロレックスだ。時計は全く詳しくないが、これが安物の腕時計やデジタルやスマートバンドだったら台無しになってしまうだろう。歴史あるブランド品、島に一つだけ持ちこんだ文明、遭難者の拠り所となり、窮地から救ってくれてもいいはずのものだ。しかしそれが逆に足元を揺るがす、正常と異常の根底を覆す役割を担う。(同じ状況に直面したら、私は自分の正気を疑うだろう。)ロレックスの時計というキーアイテムは強すぎる。
他の方の感想を読んで、「私」の骨が消える意味に疑問を持った。骨は消える、そこまでが島の怪異だと読み、簡単に受け入れてしまったが、骨が消える必要はあるだろうか。骨もまた時間と歴史を示す確固たるもので、時計よりも強烈だ。文明的ではないかもしれない。もし時計のために消されたのであれば、骨も浮かばれますまい。(この票の参照用リンク)
基本的に日常的な会話が続くだけの話だが、その日常的な空間の中で、異常なものを表現しているというか、生み出そうとしている感じが面白い。
全体的に見ると、中途半端な感じがするのだけど、アイデアが秀逸で、マネできないものだなと思う。(この票の参照用リンク)
初読の印象変わらず。作者と作品の距離感が心地よい。(この票の参照用リンク)