第250期予選時の投票状況です。5人より10票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
3 | 真っ赤な傘 | 三浦 | 3 |
5 | 姉の頭 | Y.田中 崖 | 3 |
1 | 猫 | 蘇泉 | 2 |
2 | エーディト姫救出譚 | Dewdrop | 1 |
4 | 農機少女 | 朝飯抜太郎 | 1 |
傘がどう帰ってきたのかよくわからなくなって気持ち悪い。
・最初から本屋にあり、お父さんが間違えて持って帰ってきたのか(なくなったという情報もなしに、似た傘があったので勝手に持って帰る?)
・本屋にあったが、主人公が忘れていただけ(そんなことあるか?)
・傘は別の本屋にあり、実は主人公が寄った本屋は二つあった!(そんな描写はない)
・傘は見つからず、お父さんが新しく買ってきた。
・傘は最初の本屋か学校で盗まれて、盗人がどこかの本屋に置いてきたのをお父さんが見つけた。(この票の参照用リンク)
今期の五作品も良作だと思います。
その中でも、#3「真っ赤な傘」を推薦しました。
#1 猫
猫を中心に、二人の人柄やすれ違う様子が自然に書かれている。
終盤はファンタジーに転じ、善行への報いにやや変化を加えた、現代風のお伽噺として読める。
#2 エーディト姫救出譚
エーディト姫に自我がある所に痛快さがあり、読者を楽しませる。
自我が程よい塩梅で、読者を安心させる。
#3 真っ赤な傘
家庭の中で少女が感じているちょっとした不安、そして安心。
リアルで繊細な、僅かな揺らぎのようなものを壊さないように書いている。
#4 農機少女
視覚的なトリックを今作では中盤で種明かし。その効果で後半のエンタメ要素が強まる。
土地を捨てた農夫とトラクターにどのような未来があるのだろう?ハッピーエンドに苦味がある。
#5 姉の頭
奔放な姉に振り回される弟の話か?→スリラーかホラーか。やや緊張。→意外とハートフル。猫や弟の姉への態度に安心。→社会派な寓話か、なるほど。
このように、感情や心情を二転三転させられ、コントロールされるので気持ちよさがある。
書き方の緻密さや、テーマの鋭さ、ゆるさ、くだらなさなどの違いはありますが、どの作品が優勝してもいいかと思いました。
私が、#3を選んだのは、この五作品の並びで目立って見えたからです。「傘を無くして見つける」「父が母の傘をよく思っていないと知っている」といった出来事は他作品のエピソードに比べると、あまり重大ではない。それなのにそれが少女の世界では大きい、「父が傘を見つけてくれた」ということの安心した気持ちを伝えようとしている。小さいものの大きさを書こうとしていることが目立って見えました。(この票の参照用リンク)
両親と同じ大学の、母親とつき合っていたかもしれない男性の説明をするのに、すっと入ってこないぎこちなさがあり身構えてしまう。そのぎこちなさやお互い知らずに寿限無を披露していた、だがラブラブカップルというわけではない、といった視点が微妙なあわいを生んでいるように感じた。明確な答えは得られぬまま母親は亡くなってしまったのだろうか。そんな微妙な関係性のなかにさしこまれたパリの赤い傘(鮮やか!)をなくしてしまうのは、端から見ればささやかかもしれないが、当人たちにとってやはり事件なのだ。ラストの削ぎ落とされたメッセージが、ことさらに心情を浮き彫りにするようでよかった。(この票の参照用リンク)
ライトな怪奇譚と思いきや、悲痛な話。現実とのリンクが生々しく、読んでいて兄弟同様悔しく感じる。
最初は単に続きが読みたいと思ったが、これはこれで既に話として力があり、まとまっている気がした。(この票の参照用リンク)
痴漢被害についての寓話。『姉の体を奪った相手が、姉に体を切り捨てる選択をさせた世界が憎かった。』のところに、非現実的な出来事をこのように解釈する「ユウちゃん」の「姉」に対する思いが凝縮されています。
三作品に投票できますが、『姉の頭』と肩を並べる作品が他にはないので、今期は『姉の頭』のみに投票させていただきますが、他の作品の感想もここに載せておきます。
#1 猫
三段落目の『猫の面倒を見るのは好きではなかった。』からの四段落目『俺は猫がそんなに好きではないが、猫、あるいは人間の面倒を見ることは嫌いではない。』の流れが、説明調でありながら「俺」の人格をにじみ出させていて、かつ「猫」が「美少女」になって「俺」の前に現れる展開の前触れにもなっていて、楽しくなりました。あと、六段落目の『何故か俺に言って』も些細な言葉でありながら「俺」の人格が窺い知れるところで、楽しいですね。
#2 エーディト姫救出譚
準備をすれば一人でも上演可能なコント台本として読みました。どのお笑い芸人に演じさせたらよいでしょうか。
#4 農機少女
「タモツ」は対物性愛者なのか(つまり「農機の少女」が完全にトラクターの姿をしている場合)、それとも「農機の少女」を人間として意識しているのか(つまり「農機の少女」が人の姿をしている場合)、どちらともつかず、どちらともつかないところが長所になる内容でもなく、でもたぶん後者なのだろうな、と思いながら読みました。
(三浦)(この票の参照用リンク)
一読では、田舎を舞台とした、独特の味わいのホラーと感じましたが…。そんな特殊能力者が痴漢しかしないのも、それが田舎界隈で騒ぎにならないのも、主人公が大急ぎで体を取り戻しに鉄道会社に連絡しないのも全てが不可解なので、それらが成立する背景まで描写した長編として読んでみたいと思いました。ちなみに、無人駅はプラットフォームまで出入り自由で、インターホンでの連絡は不要です。また、無人駅の隣駅も無人駅のことが多いですね。
『農機少女』は作者の得意な擬人化もの、ではありますが、少女のはずなのに「おばさんたちを安心させて」に違和感を覚えました。ダイゴとユウサクの絡みからは、この青年も農機なのでは?と思わせられ、すみません、何が何だかわらかなくなってしまいました。科学技術が進歩したら、労働量の点だけで言えば、農家に嫁は行きやすくなったようにも思うのですが。
『真っ赤な傘』は、本屋で立ち読みをしている主人公に気付かず、その父がその傘を持ち帰ってしまったので、トラブルが発生した、ということでしょうか?ほんわかさせるような筋立てかと思いきや、何か棘が刺さったような読後感、味わい深さよりは構成の甘さを感じてしまったのが残念です。(この票の参照用リンク)
恩返し譚なのか、ホラーなのか。わかる前に終わるのが良い。(この票の参照用リンク)
ありそうな話をどちらの方向に持っていくのか、全然読めないまま読み進みましたが、まさかそちらに落とすとは、やられました。普通は猫は人より家につきますが、そういうことは言いっこなしってことで。(この票の参照用リンク)
にゃはは、よくあるファンタジーものの最終決戦、王女救出のくだりを、見事にネタに変えましたね。字数に余裕があるのに「ワンフォーオール以下略」としたのも、文章のテンポを良いものとしていますね。(この票の参照用リンク)
途中笑ったが、底抜けに笑えないのは彼らの生きる未来がディストピアめいて感じられるからか、農機との恋が魅力的に描かれていないせいだろうか。タモツの行く先が判然とせず(「水田の向こう」とはまた随分スケールが小さくないか?)感情移入しかねた。ダイゴとユウサクは農機が喋っているのかと勘違いした。この世界にはもはやその差異はないのかもしれない。土をえぐるあたりも何のための描写かがわからなかった。農機との恋の異質さと、その発想はなかった、と驚きを感じられた点はよかった。(この票の参照用リンク)