第232期決勝時の投票状況です。5票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
9 | 会社のトイレの窓が低い | 朝飯抜太郎 | 2 |
4 | シンデレラックス | テックスロー | 1 |
11 | 帰宅部の活動 | Y.田中 崖 | 1 |
- | なし | 1 |
#4
シンデレラックス(という語を思いついた時点で勝ちだ)のあまりの美しさに悪役側までもが毒気を抜かれて戯れだす意外性を、数々のパワーワードを畳みかけることでテンポよく、おかしみたっぷりに描き出している。今期一番読んでいて楽しかった。
#11
拙作。詰め込みすぎ削りすぎ。ラスボス直前で終わっている点が物語として弱い。後半でアサノがひとりでに叫びだして書きながら笑った。ベタすぎ。
#9
冒頭一文の掴みがうまい。これから何を読まされるんだ? 日記? と思って読み進めるうちに、わけのわからない緊張感と焦燥感に襲われる。ただのトイレの窓がなんでこんなに怖いんだよ。意味がわからない。
日記みたいな書き出しと語り口により、彼の生きる日常が描き出される。「それだけの話」のはずの「トイレの窓が低い」という小さな違和感が、「魅力的すぎる」「これは扉ですよ」といった段階を経て徐々に決定的なズレに近づいていく。クライマックスは落ちた林田が実は語り手だったと判明するシーン。ここで日常がひっくり返され、語り手の信頼性が失われ、読み手の前提が覆る。今まで読んできた文章はどこまでが本当なのか? それは危うい問いだ。しかもその危うさは物語が終わっても続く。
腕をクロスするのは何か元ネタがあるのかなと思ったけどわからなかった。
というわけで、今期最もリアルさを感じ、手に汗握らされた#9に票を投じます。(この票の参照用リンク)
高いビルや、展望台などで、一部床が透明になっているところを歩くアトラクションを思い出した。長期休暇に入らないところがいいですね。それが自分にどのような悪影響を及ぼすかわかっていても、もう少しでいけそうっていうときには、そっちに行ってしまう欲望。人のふるまいを見て、あんなこと自分は絶対にしないなと思いつつも、いざ自分がその立場に立つと漏れなくそういうことをする。答えがあるように思えちゃうから。(この票の参照用リンク)
#4 シンデレラックス
魔法使い、かぼちゃの馬車、王子との結婚、12時の鐘。そんなものが不在でも、ちゃんとシンデレラでちゃんと御伽噺。
シンデレラはまさしく身も心も美しい無垢な娘なので、魔法で美しく着飾ってかぼちゃの馬車に乗って王子様と結婚して継母と義理の姉たちに真っ赤に焼いた鉄の靴を履かせるよりも、自分を虐げる家族が魔法なしに改心して和解し内面から溢れる美しさを4人で手に入れ舞踏会でその内面の美しさを周囲にも伝播させて午後10時に寝る(シンデレラタイム!)方を望むのだ。(前者を望むシンデレラと後者を望むシンデレラ、どちらが心の美しい娘だと私たちは感じるだろうか?勝ち組の結婚という幸せの概念は今でも強いけれど、女同士の友情、男性不在の幸福、内面から溢れ出る美、美容に良い生活などに憧れる人は多いのではないかな)
語りすぎてしまった。この作品の本質は、テーマ性じゃなくて、活字として読んで楽しいということだと思う。
お気に入りのシングルを繰り返し聞くみたいに、何度も読んでしまった。
#9 会社のトイレの窓が低い #11 帰宅部の活動 との差別化
どちらも好きだし、読みやすく、情景が見えて、心が動かされる。構成が美しくて、ショートフィルムや漫画にしても面白さが損なわれないと思った。シンデレラックスは他の2作より初見の読みにくさがあると思うのだけど、千字というルールが作者の言葉選びのこだわりを強調してメッセージ性と音楽性を強めてると思う。私はそういう技巧やチャレンジが好きなので、今回はシンデレラックスを推薦しようと思った。(シンデレラックスの他メディアへの翻訳は難しい。女性用シャンプーのラッ○スのロングCMとかにも使えるネタだとは思うけど、活字ver.朗読がないと面白さ半減だと思う。そして字幕がないと意味が取れないと思う)
#9 会社のトイレの窓が低い
日常に潜むちょっとした不安みたいな不思議で掴み所のないものを、捉えてきっていて、そして、解像度の高い文章に仕上げていて、その世界に共感しやすい。
#11 帰宅部の活動
めちゃくちゃかっこいい競技帰宅部という着想がこの先いくら出てきたとしても、この作品より濃密で躍動感のある活字作品は生まれないと思う。(この票の参照用リンク)
将棋も評価値を示すようになって、普通の人たちが戦況を把握しやすくなり、再び盛り上がってきていると聞きます。この“競技帰宅部”もドラ○ンボールのスカウターのように競技者がライバルの動向をリアルタイムで把握できるようになることで、競技性が増し、競技として成立するようになったのですね。一般市民に迷惑を掛けないルールも今後確立していくのでしょう。疾走感にわくわくしました。
『会社のトイレの窓が低い』は…、どうも人は高所から下を覗き込むと飛び降りたくなる衝動を持つことがあるようで、金門橋やナイアガラの滝、古くは高島平団地などは自殺の名所として有名でした。最近は屋上には出られない建物も増えましたね。このトイレにも対策は設置するべきでしょう。
『シンデレラックス』は…、これで幸せになれると思うのはあまりに甘いでしょう。継母とその娘二人はシンデレラックスの涙による宝石を売り払い、さらにシンデレラックスに苦難を強いて、得た宝石でどこまでも豪奢な生活に浸ることでしょう。贅沢に溺れた人は得られた財貨で人に優しくすることはありません。…文章のリズム感はさすがで、シンデレラックスが夢に見た世界とするのなら悪くありません。(この票の参照用リンク)
予選で投票した作品が決勝に残っていなかったので、票は無しにします。
今年も、面白い作品が出くることに期待します。(この票の参照用リンク)