第232期 #4

シンデレラックス

 舞踏会に行きたいわ、とシンデレラックスが凍えるように寒い納屋で雑巾を絞りながらついたため息がダイヤモンドダスト、こぼした涙はパールルビーサファイア、「シンデレラックス、どうしたの、こんな寒いところで、掃除は終わったのか!」納戸の扉を開けた継母と姉二人は寒さに震えるシンデレラックスが自らの分泌物で作り上げた宝飾品をまといて輝いているのを見つけてシャイニングゴールドサプライズ、お前はなぜこんなに美しいの、それはおしん的な美しさのたまものかしらとその美しさを取り除いてやろうとシンデレラックスを風呂に入れることにした。
 シンデレラックスは自らの分泌物が安物の石鹸で洗い流されていくのを見ながら、自分で自分のことを洗えるのになあ、とぼんやりと考えながら、しかし懸命に自分のことを磨いてくれる義理の家族を見ながら風呂はとってもいいわ、と継母と義理の姉二人とすっぽんぽんで風呂に(そのお屋敷にはとても大きな風呂があったのだ)入ってバブルバスを吹き飛ばすと質量を持たないパール、大粒。
 磨き上げれば上げるほど美しさを増すシンデレラックスを見ながらいじわる三人女はもういじわるであることをあきらめて、なんかシンデレラックスを汚したり貶めたりすることもないし、なんなら今自分たちはシンデレラックスをすでに嫉妬ではなく美しいと思えるくらい普通に接してるし、背中流したし、これからの家事の分担なんかも結構公平にすんなり決めた。そうするとすごい自分たちが高まったふうに感じて、けらけらけらと風呂場で反響するスパークリング哄笑に魔法使いも帰っていった。
 やっぱり風呂に入るというのはいいなあ、と髪を乾かしながら義母がそういえば明日の舞踏会、シンデレラックスも行こうよ、とごく自然に金言が口からこぼれた。シンデレラックスはもう舞踏会とかいいかなと思っていたがその言葉の重みと輝きに思わず涙「あらあらまたダイヤモンドが」義姉x2微笑。
 舞踏会、男と女がたくさん集まって踊りあうその場で、しかし場は完全に四人の、内面からにじみ出る美しさが伝播、ガラスの靴じゃ足りないわ、足りない足りない全然足りない、ブリリアントプラチナトゥシューズで刻むステップ鳴るダンスホール、王子タジタジ、ていうか俺もみんなに恥じないような立派な王子になるわと旅に出ることに決めた。
 四人娘は家に帰って、風呂に入って、十時には眠る。すごく深い眠りを眠る。



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