第229期決勝時の投票状況です。5票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
3 | 父親の背すじ | 朝飯抜太郎 | 1 |
9 | 警官と少女 | euReka | 1 |
10 | 森へ | Y.田中 崖 | 1 |
- | なし | 2 |
他作品と比べて文章のリズムが巧みで、物語全体の流れがスムーズで読みやすい。例えば一段落目の、担任への返答の緩急のつけかたであったり、「おやつ!と後ろから泣き声。」のほとばしる子ども感からの体言止め三連続であったり。ラストの「さあ、のぼりなされ〜」というおかしみ溢れるセリフから、「コスパ最強電動自転車」という語感最高ワードに続き、「こんな坂、屁でもない。楽勝だ。」のホップステップジャンプ感。それらのリズムが語り手の感情の動きを表現しており、本作の物語全体の流れを作っている。さらに、上で挙げた箇所以外の、いわば平常時の語りが丁寧で読みやすく書かれているからこそ、語感やリズムが際立つのであって、基礎力の高さというか、「これが、文章力……!」みたいな感覚があります。一書き手として読みながら背筋が伸びる思いでした。
内容については、今期は好みの作品が多く読んでいて楽しかったです。そのなかでも本作は共感できる部分が多くて、こういうのもっと読みたい!と強く思ったので一票。(この票の参照用リンク)
決勝進出の他の作品はみんな現実的で、文章も美しいものだったので、逆にシュールさで飛び抜けている本作を推します。…歩く傍から草花を繁茂させられる少女が、沙漠地帯の緑化など政治利用されないかが気になりました。
『森へ』『おはようみそ汁』は文章も美しく、字数制限の中で比喩で、また音を効果的に用いて、場面を独特に描いていますが…、あえて悪口を言うなら“普通”でした。どこかで読んだような。
『父親の背すじ』は、息子が3歳の時には妻君は入院中でビデオ通話となり、現在は亡くなっているか少なくとも入院中で、家事も子育ても語り手である父・夫が一手に担っているのだろうな、と感じました。ただ、事象の描写・連関がうまく噛み合ってないように感じられたのが残念です。(この票の参照用リンク)
「人気のない静かな森で」から始まり最後に至るまでの、語り手の空想と現実との重なりとあわいがなんともよい。
空想が尾を引いて、最終文に至るまで、そこは「森」のまま。
読んでいるわたしも、森で新しく生気を得たような思いで読み終える。素敵な作品をありがとうございました。(この票の参照用リンク)
予選で票を入れたのは、「森へ」と「おはようみそ汁」。
どちらも、作品としてよくできている部分があるのだけど、改めて読むと、結局は、人生を楽しんでいる人のちょっとした物語でしかなく、心に響くものが少ない(物足りない)なと思った。
特に不幸な人生を書く必要はないのだけど、わざわざ人生を楽しんでいる人のことを読んでも、ちょっと羨ましいなとしか思わない。
もっと厳しく言えば、話が上手くまとめられている感じ。
ある満足感は得られるけれど、それ以上がない。
そういう不満を感じたので、今回は票無しにしたいと思う。(この票の参照用リンク)
#10 森へ
妄想を書いた話で確かに作り話ではあるのだが、どこか写実的である。夢と現の間の意識を描写してるような感じである。この作品がエッセイ的であるのは、作者の感性を通してみたある日の出来事に見えるからかもしれない。
#3 父親の背筋
「日々父になっていく実感、その苦労と喜び」みたいなことを書こうとしてるのはわかりやすい。それはまさに人生の真実なのだから共感されるだろう。エピソードの大きさや挟み方は効果的でうまい。しかし最終段落でこの物語の答え合わせを本人の心理描写によって説明されてしまったので、やや理屈っぽさが出る。冒頭は惨めな気持ちだが、思い出の回想を経て、もう少し頑張れる気持ちになる。自分で自分を励ますしかないが配偶者のサポートもある。坂道を登ることと子育てをどこか重ねている。主人公の心の中で問題が解決していくこの作品が面白いかはわからない。強いて言えば、父親と母親の育児体験の違いについて注目した感想がこの作品に付くのが面白かった。読者の出る幕がそこになる作品。
#4 おはようみそ汁
二つのキャラクターと二人の関係について魅力を感じてもらいたそうな作品。二人の精神的な親密さを表すアイテムとしてみそ汁が使われている。子と親、夫婦、男と女、不摂生者とそれを咎める保護者。みそ汁が象徴してきた人間関係を、同居する独身男性二人に見せることで新しさを見せようとしているように見える。(みそ汁の記号性にフォーカスしたわけではないだろう、多分)。千字作品というよりはもっと長い作品の立ち上げ部分のような印象。
#9 警官と少女
冒頭、私はこの警官の間違った認識は正されるべきだという願望を抱き、読み進めていった。オチは、「少女にとっては無視こそがより大きな悪」であった。それは確かに現実の、注意する警官と非行少女の関係と似ているのだった。でも面白いとは感じなかった。おそらく私は警官の改心や世間が少女の魅力に気づくなどの違うものを求めてしまったと思う。求めていたものと違う結末であれ、最後の少女の言葉に対する警官の反応は見たかったし、作品中の会話はやや多過ぎ、少女の思考が素直に言葉になり過ぎと感じた。(この票の参照用リンク)