第229期決勝時の「なし」票です(2票)。
予選で票を入れたのは、「森へ」と「おはようみそ汁」。
どちらも、作品としてよくできている部分があるのだけど、改めて読むと、結局は、人生を楽しんでいる人のちょっとした物語でしかなく、心に響くものが少ない(物足りない)なと思った。
特に不幸な人生を書く必要はないのだけど、わざわざ人生を楽しんでいる人のことを読んでも、ちょっと羨ましいなとしか思わない。
もっと厳しく言えば、話が上手くまとめられている感じ。
ある満足感は得られるけれど、それ以上がない。
そういう不満を感じたので、今回は票無しにしたいと思う。
参照用リンク: #date20211103-172512
#10 森へ
妄想を書いた話で確かに作り話ではあるのだが、どこか写実的である。夢と現の間の意識を描写してるような感じである。この作品がエッセイ的であるのは、作者の感性を通してみたある日の出来事に見えるからかもしれない。
#3 父親の背筋
「日々父になっていく実感、その苦労と喜び」みたいなことを書こうとしてるのはわかりやすい。それはまさに人生の真実なのだから共感されるだろう。エピソードの大きさや挟み方は効果的でうまい。しかし最終段落でこの物語の答え合わせを本人の心理描写によって説明されてしまったので、やや理屈っぽさが出る。冒頭は惨めな気持ちだが、思い出の回想を経て、もう少し頑張れる気持ちになる。自分で自分を励ますしかないが配偶者のサポートもある。坂道を登ることと子育てをどこか重ねている。主人公の心の中で問題が解決していくこの作品が面白いかはわからない。強いて言えば、父親と母親の育児体験の違いについて注目した感想がこの作品に付くのが面白かった。読者の出る幕がそこになる作品。
#4 おはようみそ汁
二つのキャラクターと二人の関係について魅力を感じてもらいたそうな作品。二人の精神的な親密さを表すアイテムとしてみそ汁が使われている。子と親、夫婦、男と女、不摂生者とそれを咎める保護者。みそ汁が象徴してきた人間関係を、同居する独身男性二人に見せることで新しさを見せようとしているように見える。(みそ汁の記号性にフォーカスしたわけではないだろう、多分)。千字作品というよりはもっと長い作品の立ち上げ部分のような印象。
#9 警官と少女
冒頭、私はこの警官の間違った認識は正されるべきだという願望を抱き、読み進めていった。オチは、「少女にとっては無視こそがより大きな悪」であった。それは確かに現実の、注意する警官と非行少女の関係と似ているのだった。でも面白いとは感じなかった。おそらく私は警官の改心や世間が少女の魅力に気づくなどの違うものを求めてしまったと思う。求めていたものと違う結末であれ、最後の少女の言葉に対する警官の反応は見たかったし、作品中の会話はやや多過ぎ、少女の思考が素直に言葉になり過ぎと感じた。
参照用リンク: #date20211103-120727