第114期決勝時の投票状況です。11票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
15 | とんかつ | 伊吹羊迷 | 5 |
11 | 酔いどれ | 三浦 | 2 |
13 | 蛹化式(ようかしき) | 呑 | 2 |
- | なし | 2 |
前作といい、今作といい、実にいいところを狙ってくる。奇をてらわない事で逆に奇をてらっているというか、普通すぎて他の人間が小説にしないようなことをちゃんとした作品に仕上げているのはすごい。だが、やはりうまいうまいの連呼は陳腐すぎる。字数の制限もあるから難しいところだろうが、それを読者に字数の問題と思わせるか、作者の語彙不足だと思わせるかもやはり技量次第だと思う。とはいえ、単純に面白かったので一票。(この票の参照用リンク)
特別、すっごい良かった!!というわけでもないですが。
「うまい」って音が引っかかるのか、連呼されるとちょっとうるさい感じがしました。1回だけでも、音が気に入らないのか、その言葉好きではないことを知りました。
ただ、おいしそうなとんかつに1票です。
#13 蛹化式(ようかしき)
1回目は、ループですか?!と思ったものの、なんだかその後腑に落ちない点がいくつか……。花瓶とか包丁とか。
ループにしては、時間軸がループしているわけではないので変なところに歪みが生じているような気がしました。
あとは、あれ。生理的にちょっと……。蛹化が、ということではなくて。なんというか、その医療行為、神の領域のような気がして怖かったです。
#11 酔いどれ
う〜ん。感想が書けるくらいその世界観がわからなかったです。スミマセン、読み込みが甘くて……。(この票の参照用リンク)
こういう人と食事をしたら楽しいだろうなあ。(この票の参照用リンク)
15 とんかつ 伊吹羊迷
このサイトを読んでてあんまり思わないんだけど、この作品はうまいと思った。
文章の優劣を語彙の量で測ってしまったりする意見もあるんだけど、基本的に文章の上手さは構造にでると思う。下のところなんか、
『乳白色のドレッシング。うまい。ドレッシング特有の鼻に来るきつさがなく、キャベツと本当によく合っている。うまい!
今度は梅ドレをかけてみようかと考えているととんかつが届いた。(略)鶏のから揚げでもポテトでもいい。揚げたてはいつだって卑怯だ。
わさびでいただく。うまい。醤油でいただく。うまい。すりごまと一緒にソースでいただく。うまい。』
「うまい」という音で遊んで勢いづけたあとに、揚げ物がどうのと考察に入るところがうまい。その後でまた「うまい」を連発させる構造が気持ち良かった。
あと、感想書きながらもっとおもしろくなる可能性なんかもさぐるのだけど、
泉昌之の「夜行」よろしく、キャラクターをもうちょっと立てる方法とかもあっただろうし、もうすこし登場人物を増やしてもいいだろうし、他にもアプローチの方法はあるんだろうなとか。まあでもこのシンプルさが良かったのかなあとも。分からんよね書かれなかった可能性の中の作品と比較するなんていうのは。
11 酔いどれ 三浦
執拗に描写を重ねることで得られる効果は、たぶん没入感なんだろうなと思う。描写は実際の時間感覚とズレるんで、描写は実際に必要とされる時間よりも長く処理がかかるんで、それで生じる感覚なのかなこの作品の持つ没入感は、と思った。
時間を忘れるために小説は読まれると思っていて、そういう意味ではこの作品は成功してると思うんだけど、でも、もっと違うモチーフを選んでも良かったんじゃないのかなっ、とも思う。なんというか、同じ調子の描写だから統一感はあるんだけど、言葉の奥にある音、色、意味なんかを捉まえていないというか。
才能という言葉を使って考えると、とんかつの「うまい」の使い方は音楽的に優れてる印象があってつまり構造のおもしろみを感じるのだけど、この作品の言葉同士は、結合がゆるいというか、むしろ無い感じ。例えば「南瓜のように硬く脹らんだ店主」という比喩があるけど、比喩なんていうのは、違う物と違う物を強引に言葉の上で重ね合わせるという気ちがいじみた技術なのに、これかぼちゃって言い方じゃなくてもいいんじゃないの? って。南瓜は店主じゃないし、店主は南瓜じゃない。それをあたかもイコールとして成立させてしまう言葉のすさまじさ、それを認識させる脳っていうところに対する畏怖がないんだよなって思った。それとも私と作者の語彙世界がまるで違った感覚なのかな、とも。
13 蛹化式(ようかしき) 呑
蛹って実際にすごくおもしろいんですよね。でもその部分がすごくはしょられてて残念で、たぶんもっと長くすれば確実にもっと楽しいものに、と思いました。単純にもったいないなと思った。
10年前くらいはSFの書かれ方に違和感を感じなかったのだけど、さいきんは感じます。「蚕人」なんて造語をぽんと出してしまうあたりとかが気になるのですよね。そういう手法を使わずとも、現実とは違うんだけど現実に思わせる、小説世界を構築する手法は思い浮かぶわけで、どうなんだろうかなあって。「女子会」なんて言葉を急に作りだして商売しだしちゃうようなうすまった広告業界に接してる感じになるのかな。
なんていうか、別にこのままでもある程度おもしろいけど、でーももっとこれはおもしろくなるだろう、って意味で投票から外れる感じです。「とんかつ」は、このあたりの書きこみまでで正解かも、と思えたんだけど、このサナギは、確実にもっとおもしろいボリュームになっただろう、なんて。なんか人間てめんどくさいなあって思いますね。(この票の参照用リンク)
二度目、読んで見た。面白かった。(この票の参照用リンク)
「酔いどれ」三浦
いろいろな解釈ができる作品だと思います。何度も何度も、読まして頂きました。歩幅?……夢遊病者の手つき?……なんでここで犬が……影がなぞる?……高い酒に頼み直した……酒を嗅ぐ様子が犬みたいだ……学生? 呑む金親から貰ってるからか?……こういう引っ掛かりの多さ、いびつで、魅力的でした。引っかかることを放棄して読んでみても、「酔いどれ」の絵は汚く、それがかえって美しいのです。「罪と罰」の砂埃舞うロシアの街が、想起されました。ダブリンを思い浮かべた方もいらっしゃったようですね。
この作品は、たしかな強度をもっていると思うのです。色んな解釈を可能としながら、すべての解釈を不可能とするような。その強さをもって、票を投じます。
「とんかつ」伊吹羊迷
歯切れのいいリズムの語り。 読んでいて「酔いどれ」とはまた違う幸福感を覚えました。とんかつとサラダ、おいしそう。
「蛹化式」呑
詰めが甘い、勿体無い、という言葉を多数頂きました。特に社会制度の面を指摘してくださった方、目から鱗がおちました。そういう視点が無かったのです。
(呑/能見煌兵)
(この票の参照用リンク)
「酔いどれ」
話に味わい深さがある。男が常人とは違うことを気にし、違うことを気にしていないせいで、社会から疎外されている孤独がしっかりと伝わってきた。
出て行ったのに学生の死を書き、聞こえないのにモリエールと書くあたりは、語り手と男のはっきりとした分離がわかり、それがまた男の孤独さを深めてていい。
結末の理由が説明されないのもそれだろう。語り手は男の気持ちがわからないのだろうし、興味もないのだろう。
「蛹化式」
魅力的なガジェットを使っていて面白い。文章もひっかかるところがなく読みやすい。
だがこのオチはどうだろう。退院する前にそもそも殺人未遂で捕まるのではと気になってしかたがない。
司法や警察の制度が現実と大きく違うのなら、それに対する言及は必要不可欠ではないだろうか。
また中盤の父親の回想では同一性に関する不安を出しておきながら、それが結末に貢献している様子がないのもマイナス。
ループオチの作品は閉ざされた世界なので、一片の隙もないように構成すべきではないだろうか。
「とんかつ」
ああまたかという気分に。ここ数年各所で、食べ物を描写してるだけの短編小説をよく目にする。グルメ漫画ブームの影響だろうか。
この作品はその系列の中でもあまり良いとは思えない。視覚的描写ばかりで味覚描写が乏しすぎる。文にそのまま「うまい」と書いてしまうのは表現の敗北ではないか。
食べ物を食べるだけで終わらせているのもいただけない。物語性が皆無なのは許容できるとしても、主人公の人生がほとんど見えてこないのはつまらない。
グルメ作品というのは、料理の個性と主人公の個性を絡み合わせ確かな存在感を持たせるべきではないだろうか。(この票の参照用リンク)
#11 酔いどれ
三浦さんのことだから意図があると思うんですけど、やっぱり何度読んでも腑に落ちない部分が多かった。
世界観に関してはすばらしいと思います。うらぶれたかつてのアイルランド市街の情景が浮かぶようで。
#13 蛹化式(ようかしき)
残った作品の中だとこれが一番気に入りました。
きちんとSFしてて、オチも用意されてて正統派だと思います。
#15 とんかつ
作者さんの文才というか魅せる文章の書き方は凄いと思います。
が、短編小説としてみるとこの作品に関して言えば物足りなかった。
とんかつ食べたい。
(この票の参照用リンク)
オーケー、面白いんで、それ以外になにか言葉が思いつかない。(この票の参照用リンク)
#11 酔いどれ
三浦さんの文章は個人的にとても好きで、読むといつも千文字の長さに驚かされます。ただ今回は迫ってくるものがないというか。読み進めるにつれて物語との距離が遠くなっていくようで、入り込みづらかったです。
#13 蛹化式(ようかしき)
無理矢理っぽいけど面白い設定だなあと思って読み始めたら、それでやることはありきたりなループものだったので少しがっかりしてしまいました。もったいない。
#15 とんかつ
一回目読んだときはテンポのよさが楽しかったのですが、二回目以降はやや食傷気味に。他の方も書かれてますが、やはり「うまい」が繰り返されるあたりがネックになっていると思います。
とんかつは食べたい。あと特製ドレッシングが気になります。
というわけで、どの作品も今ひとつという印象でした。(この票の参照用リンク)
♯15
だから何だ、という気持ちを逆手に取ったというアイデアか。でもやはり「だから何だ」という感想しか浮かばない。その悪循環を抜け出したさきにだけ、本当に書くべきものがあると思う。
♯11
「丸投げ」した意味や行為の安売りか。あとは読む人間の「感性」で勝手に解釈しろということだろうか。それじゃあ「雰囲気」しか伝わらないよ。
♯13
説明が大半で、物語を深められなかったという印象。千文字という制約には、合わない作風かもしれない。
(euReka)(この票の参照用リンク)