第114期決勝時の、#11酔いどれ(三浦)への投票です(2票)。
「酔いどれ」三浦
いろいろな解釈ができる作品だと思います。何度も何度も、読まして頂きました。歩幅?……夢遊病者の手つき?……なんでここで犬が……影がなぞる?……高い酒に頼み直した……酒を嗅ぐ様子が犬みたいだ……学生? 呑む金親から貰ってるからか?……こういう引っ掛かりの多さ、いびつで、魅力的でした。引っかかることを放棄して読んでみても、「酔いどれ」の絵は汚く、それがかえって美しいのです。「罪と罰」の砂埃舞うロシアの街が、想起されました。ダブリンを思い浮かべた方もいらっしゃったようですね。
この作品は、たしかな強度をもっていると思うのです。色んな解釈を可能としながら、すべての解釈を不可能とするような。その強さをもって、票を投じます。
「とんかつ」伊吹羊迷
歯切れのいいリズムの語り。 読んでいて「酔いどれ」とはまた違う幸福感を覚えました。とんかつとサラダ、おいしそう。
「蛹化式」呑
詰めが甘い、勿体無い、という言葉を多数頂きました。特に社会制度の面を指摘してくださった方、目から鱗がおちました。そういう視点が無かったのです。
(呑/能見煌兵)
参照用リンク: #date20120407-163918
「酔いどれ」
話に味わい深さがある。男が常人とは違うことを気にし、違うことを気にしていないせいで、社会から疎外されている孤独がしっかりと伝わってきた。
出て行ったのに学生の死を書き、聞こえないのにモリエールと書くあたりは、語り手と男のはっきりとした分離がわかり、それがまた男の孤独さを深めてていい。
結末の理由が説明されないのもそれだろう。語り手は男の気持ちがわからないのだろうし、興味もないのだろう。
「蛹化式」
魅力的なガジェットを使っていて面白い。文章もひっかかるところがなく読みやすい。
だがこのオチはどうだろう。退院する前にそもそも殺人未遂で捕まるのではと気になってしかたがない。
司法や警察の制度が現実と大きく違うのなら、それに対する言及は必要不可欠ではないだろうか。
また中盤の父親の回想では同一性に関する不安を出しておきながら、それが結末に貢献している様子がないのもマイナス。
ループオチの作品は閉ざされた世界なので、一片の隙もないように構成すべきではないだろうか。
「とんかつ」
ああまたかという気分に。ここ数年各所で、食べ物を描写してるだけの短編小説をよく目にする。グルメ漫画ブームの影響だろうか。
この作品はその系列の中でもあまり良いとは思えない。視覚的描写ばかりで味覚描写が乏しすぎる。文にそのまま「うまい」と書いてしまうのは表現の敗北ではないか。
食べ物を食べるだけで終わらせているのもいただけない。物語性が皆無なのは許容できるとしても、主人公の人生がほとんど見えてこないのはつまらない。
グルメ作品というのは、料理の個性と主人公の個性を絡み合わせ確かな存在感を持たせるべきではないだろうか。
参照用リンク: #date20120402-151303