第114期 #13
気づけば集中治療室の中、私のベッドの前で、強制蛹化だ準備をしろ、と医師が叫んでいる。私は朦朧とする意識のなか、蚕人の蛹化について高校で習ったことを思い出していた。……身体が著しく損傷・老化・あるいは死亡した場合、蛹化する。蛹の中ではヒトでいう子宮のあたりでクローンされた原基が急速に成長し、古い身体はすべて食細胞に食べられてしまう。蚕人が染色体数、ゲノム構成ともにヒトとほぼ同じであるゆえに、医療技術に応用される……
父を心筋梗塞でなくしかけたときも、蛹化式で復元します、と言われた。
私は医師に、父の人格はどうなるのか、と訊いた。
……特殊な食細胞を使います。お父様の体を食べると共にすべてをスキャンするようようデザインされた。それに基づいて、お父様の原基を創ります。脳も再現されます。
それで父が、出来るんですか。
そのための蛹化式です……完全変態する昆虫が、蛹の中で何をしているか、ご存じですか。
いえ、と答える。
記憶の反芻ですよ、と頭を指さす。幼虫と成虫原基は異なるものなのに、ですよ。消えゆく幼虫と成長してゆく成虫は、同じ夢を見ている。
でも、完全には受け継がれないのでは……
そうですね……しかし、私たちは一瞬一瞬違う自分を生きている。記憶になることによって初めて、連続している<自分>を感じられる。完全なんてものは、ないんですよ。
……結局その言葉に納得して、私は蛹化を承諾した。新しい父は、それまでの父と変わらぬ様子で生き、老衰で死んだ。
目覚めたとき私は羽化していた。夫もなぜか一緒に羽化していた。わけを覚えているか、と私の病室にきた夫が問う。私が首を傾げると、彼はそれ以上なにも言わず、自分の病室へ戻った。引っかかりを覚えつつも、揃って退院した。家に入ると、玄関に飾っていた花瓶がない。わけを訊くと、夫は荷物を床に落とした。
それできみが僕を殺そうとしたからだよ、と彼は言った。私には何を言っているのかさっぱりわからなかった。リビングにあがると、口論がはじまる。言い合いの果てに彼は私に馬乗りになり、首を締める。私は本能的に側の棚を開け、包丁を取り出し彼の首を横に貫いた。彼は柄に手をかけて抜こうとするが出来ない、赤い泡を吹き、私を怒りとも悲しみともしれないまなざしで見ていたがやがて焦点があわなくなり、涙をこぼし、やがては血も涙もとまり、
私は、
気づけば集中治療室の中、