第85期決勝時の投票状況です。11票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
16 | 不惑 | 黒田皐月 | 4 |
13 | 奴隷日記 | のい | 3 |
27 | おじいちゃんの呪い | 高橋唯 | 3 |
- | なし | 1 |
草臥れた悲しさを感じつつも、決して否定的で悲観的な話では無いところにとても好感を抱きました。次の作品、楽しみにしています。(この票の参照用リンク)
不惑
今回の決勝の中で、最も主人公の気持ちが伝わってくる作品だ。
諦観じみた考えに浸ろうとしているのだけど、人並みの祝いを求めてケーキを買ってしまう気分などよくわかる。
どこか寂しく乾いた雰囲気ながら、読後に優しい気持ちになれるところも良い。
おじいちゃんの呪い
上手い。文章・構成ともに良く出来ている。
老いの妄執に嬲られ続けた主人公が、元がなくなっても身体に染み付いている様子の表現などとてもいい。
ただはっきり言って不快な読後感だ。作者の意図はそこにあると思われるので失敗とはいえないが、その不快感を超えるほどのなにかがないので、一歩及ばなかった。
それと一つ疑問に思ったが、老人の腹上死くらいでプロの救急隊員が動揺の色を見せるだろうか。あるいはそうなのかもしれないが、そこに疑念を抱かせないようであればもっとよかった。
奴隷日記
正直困る。まったく面白く感じられないし、どこが魅力なのかもわからないのだ。掲示板に書かれた感想を見てもやっぱり面白さがわからない。
虐げられた奴隷の救いの無い情景がテーマだとすると、奴隷の日記形式というのは上手くない。
まともな教育を受けてない主人公なので、巧緻な文章を使うことができない。その演出が成功しているように見えない。
最後の時代がかったような一文も唐突な印象があり、読んでいて醒めてしまう。リアリティならリアリティで徹底したほうが良かったのでは。
とにかく、全体的に推敲が足りてないような空気が漂っている。「夜が来て月が上がる頃」なんて表現が、入念な推敲を経て残る文章とは到底思えない。(この票の参照用リンク)
『おじいちゃんの呪い』は文章は下手じゃないのに、取り扱った問題が好き嫌いあるんじゃないでしょうか。私はダメでした。テーマをガラっと変えてみてほしいです。たとえばバカみたいに明るい話とか。次回に期待します。
『奴隷日記』は淡白過ぎました。でも描写力はありますし、脳裏に残ります。批判なのか、ただ事実を伝えたいのか、捻じ曲げて何かテーマを訴えてるのか…浅学のせいでしょうか、何が言いたいのかがいまいち伝わってこなかったので、票を入れかねました。
というわけで『不惑』になりました。不惑、というタイトルがつりあわないような気もしますが、それ以外はスッキリ読めました。扱ったテーマ、四十路男のみの登場人物が暗いもののはずなのに何か光を感じます。そこが上手いです。個人的にはもうちょっとファンキーに書いて欲しかったなあ。(この票の参照用リンク)
>>13 『奴隷日記』
意識して再読しないと理解できない文章の断片化。
この内容なら日記形式にする必要はなかったのでは。むしろ独白主体で突っ走った方が“読ませる”という部分で効果的だったように思える。敢えて日記形式を選ぶなら、日付ごとに喜怒哀楽などコントラストを付ければ読み応えがあったように思われる。
>>16 『不惑』
パンチの効いたオチが待っているわけでもなく、きわめてありふれた日常のひとコマが舞台である。そんな題材を選んだにもかかわらず、訴えかけるものを感じた。確かに感じることができた。それは、おそらく、作者が作品と真正面から向き合っているからではないだろうか。真摯な執筆が評価される。
>>27 『おじいちゃんの呪い』
取り敢えずインパクトを与え、その衝撃の恩恵で印象を残そうとする。ケータイ小説の流行に似て、総てに於いて不快でしかない。このようにまで下品に走らなければ表現できない主題だったのだろうか。とても疑問に思う。文章的にも苦悩の跡は見られず、ストーリーのマイナスを度外視したとしても推薦することはない。(この票の参照用リンク)
・奴隷日記
主人公(俺の中では娘)の仕事がなんだったのかってことと、主人公の殺され方が気になってますが、書いてあることは面白かったです。
・不惑
不惑を思いながら誕生日とかケーキとか、何言ってんだと思いましたが、あえてそうしたのでしょうね。
「うめえ、うめえよこのケーキ! 過去とかもうどーでもいいよ!」とか言いながら、なんかもうよくわかんない涙を流してそうだな、と思いました。(この票の参照用リンク)
予選で投票した3作品のうち、決勝にのこった作品はこの作品だけであるので、まず率先して投票します。しかし、「おじいちゃんの呪い」は今期一番技術的にうまいですね。
今期の投票結果は、思っていたのとはちがって、私の好みの作品に票がたくさん入っていましたので、個人的にうれしく思いました。
(この票の参照用リンク)
『不惑』
「だがしかし、目の前のケーキと紅茶は論語にはあまりにも不釣合いで、私は自嘲気味に笑わざるをえなかった。」
この文章が無ければいい作品なのに。
『おじいちゃんの呪い』
読めば読むほど『おじいちゃんの呪い(抄)』という気がしてくる。
上手いは上手いけど、面白いところが省かれてしまっているような感じがする。
『奴隷日記』
文句無。傑作。(この票の参照用リンク)
『奴隷日記』
日付の記号にとっつきにくさを感じ、内容的にも好みがでそうだと思ったのですが、個人的にはそう悪くはない感触でした。だたやはり全体的な精度が低いのではないでしょうか。まだラフスケッチの段階なように感じました。
最後のところで醒めてしまいました。これを「起承転結」で落とすのはどうなのでしょうね。
『不惑』
きっちりと書いた内省もの。うまいと思いました。
しかし地味ですよね。こうした作風が好みの方にはいいのかもしれませんが、個人的には何かしらの動きがほしかったです。
『おじいちゃんの呪い』
描写力が高く、映画を観ているような気分になりました。しかし加奈子自身の情報が少なく、そこで入り込めきれなかったのが少し残念でした。それと(最初の文など)演出多過じゃないかなと感じるところがいくつかありました。
ただ、この三作品の中では一番完成度が高いと思います。なのでこれに。(この票の参照用リンク)
予選でも推したので。
私はそれほど不快を感じなかったな。
清と濁の両面があって、濁を1000字の(さらにその一部の)中で表わすのは難しい一方で、清はただ字面で表すのが比較的簡単なために安っぽく表現されやすい。
本作は清と濁との皮膜の間、というかその皮膜に空いた穴がよく表されていたと感じました。
あと、予選結果の意外さって私も感じたが、それは時代の流れかも知れないな、と納得した(予選結果がすべて詳らかになっていないので何とも言えないが)。
加えて、票が分散化した場合、投票総数の何割に満たなければ予選通過作なし(あるいは優勝作品なし)とすべきなんじゃないか、とも感じるが、いかがなものか(作品の質とは別の話となるが)。(この票の参照用リンク)
予選作品をつーっと流し読みした段階では、ああ、今回は朝野さんが優勝するんだろうなあと思っていたのだけれど、流し読み以上の時間を費やすことができなかったので結局投票は見送ってしまった。それで今朝、ああ、これは意外な結果と思いつつ、やっぱ投票しておけばよかったと思いつつ、そういうことで決勝はきちんと投票しておきます。
そういうわけでこれに一票を投じる。正直、内容に不快感を覚えない、ぬめりとした手で頬を撫でられるような気がしないかと言われれば、それはまあ嘘になるけれど、「そういうこと」をあえてしっかり書けているのはこれもまた技量であると思うし、なによりイメージの描写が秀逸です。諸々の動きをあらわす言葉が、読者の頭を空ぶることなく、イメージ(世界情景)としてしっかりと脳に打撃を与えてきます。(この票の参照用リンク)
読者の感覚と開きがある予選結果だと感じています。まあ、作者より投票者が少ないことが、なにを語っているかといえば、読者不在の結果は当たり前なのかもしれませんが、もっと読者を意識した創作が必要なのではないでしょうか?
(この票の参照用リンク)