第75期決勝時の投票状況です。7票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
23 | 背中 | K | 3 |
16 | 世界の死 | euReka | 2 |
18 | 擬装☆少女 千字一時物語42 | 黒田皐月 | 2 |
・「世界の死」について
「世界の死」もきれいな短編小説だとは思うけれども、あえて決勝なので作品以外の部分について語らせてもらうと、私は作者のウェブページに載っている詩のほうが好きだ。難解で理解を拒む現代詩が流行のなかで、作者の書いている詩は、まったくの素朴な自分の言葉で書かれている。珈琲を飲む孤独な男に会いにいくものの、何も話さずに二人で珈琲を飲む、という詩などはどうしてこれを短編にしなかったのか、と文句がいいたくなる。
それに比べればこの「世界の死」は死や夢といった言葉に重みが感じられない。他の誰かが書いている話のうわずみだけを拾ってきたような感じさえする。
この点でいえば、予選落ちしてしまったけれども、今期の「雪」はいい小説だった。言葉や比喩は「世界の死」より単調であっても、主人公に背負っているものがあって、それが作品に現実そのものではないが限りなく現実にちかく感じさせるリアリティをうんでいた。なので、「世界の死」は推さない。
・「擬装☆少女 千字一時物語42」について
予選で投票した。私の好みでいえば優勝レベルであるが、この種の作品には本当は優勝などしてほしくない。私以外の多数に理解されたくない、という読者ならではのわがままが働く。世間の評価では常に4位あたりの普遍性を持ちつつも、10人のうち1人には熱烈な賛同者を得るようなテーマなのだと思うから優勝してしまうと作品の質を心配してしまう。人気と実力は常にイコールではない。
独自のドラマトゥルギーをさらに発展していってほしいです。決勝では好みでいえばダントツ優勝、だが完成度の点で「背中」がいいと思った。「背中」と同時期に投稿されていることが作者にとっては悔やまれるかもしれないが読み手にはうれしい。
・「背中」
予選で投票した。1000字という文字数に無限の可能性を感じさせてくれる作品だと思う。短編は10代からひょっとしたら80代くらいまで読んだり投稿したりしているんじゃないかと思うのだが、どの年代が読んでもそれなりに感じるところがある作品だと思う。ちょっと難しい気もするけれども、一度信頼して読むとこれくらいにみっちり描写されている方が何度も読める。使いすての刺激的文章の多い時代とは逆を行っている点が新しい。オオエやミシマを読むことがカッコいいことだと思っていた世代の読者や今でも生き残っている文学青年たちも手にとるだろう。ケータイ小説などとバカにしてくる輩にはぜひともこの「背中」を読ませるべきだ。
決勝にはこの作品を投票する。「でんぐりがえし」に驚いた。1000字なのに物語がここで大きくうねる。まさかこの気難しそうに朝から子泣きジジイのことを考えるような男が、すべてを論理的にしか考えられないようにみえる男が、唐突にでんぐりがえしをするだろうか? しかし、きっとするのだ。
冒頭の「頭でっかち青年」(まあそれも貴重だ)という類型を見事に逸脱した「でんぐりがえし」に脱帽するとともに、急にイロケのイもみせなかった主人公の影からでてくる女の存在がなんとエロいことだろう。「寝起きのかすれ声」という一文は今期最高にエロく、こういう知性のあるエロを描けるのかと予想をこえて驚いてしまった。作者のウェブページを読むと私よりもずっと哲学に詳しい人みたいだが、哲学とは悲劇をいかにも生真面目なふりして喜劇に変える文学的方法だと私は思っている。その点で読むとこの話は上質な喜劇となりうる。つまり高度な哲学を内包した小説といいかえられて、読み手はしらずしらず悲劇を喜劇にする法を教えてもらえる。
小説というのはたった一文でこうまでも世界観をがらりと変えてくれるジャンルであったか、と再認識させてくれる作品だった。私もでんぐりがえしをしよう。
(この票の参照用リンク)
済みません。いろいろ書きましたが、今期は最初からこれひとつしかないと思っていたのでした。(黒田皐月)(この票の参照用リンク)
今回の中では、これがダントツだと思いました。(この票の参照用リンク)
初読時は読み飛ばしていましたが、決勝に残り再読してみると結構おもしろかったです。読み手によっていろいろな読みができる作品だと感じました。胡蝶の夢現代版のようでもあり、ネット社会への警句のようにも思いました。(この票の参照用リンク)
予選で二票を投じ、その二作品がそろって決勝に進み、我がことのようにほっとしております。しかし、どちらへ決勝票を投じれば良いのか、とても悩まされました。
総合的に評価すれば「背中」です。しかし売れるのはこちら「世界の死」だろうと思います。方向性は違えど、どちらも好みの作品で、非常に迷いました。悩んだ末、詩的なモチーフに惹かれ、僅差で「世界の死」に軍配です。
不思議系な物語のなかへ織り込まれた、作者様の死へ対する概念に興味をいだかされました。
眠りと死、そして夢。ふたつの状態を分かつ境界線はどこまでも曖昧で。両者の中間地点である意識の薄濁。人生で言えば老化や呆けさえもやさしく受容している。それらの裏側に“夢を見る”を持ってくる。しかも当事者でない機械に“夢を見る”を託している。……色々と深読みさせられました。
これらを千文字のなかへ魅力的に組み込んだ作者様に敬意を表したいと思います。(この票の参照用リンク)
今回の決勝投票は、どの作品も甲乙つけがたく、大いに迷わされた。切り取った場面の心地よさでいえば「背中」が一番であり、また幻想的なメタファーで溢れた「世界の死」もひどく美しい物語だった。
しかしここはあえてこの作品に投票させてもらう。起承転結のはっきりとつけ、さらに鵞鳥の使い方もうまく唸らされた。母息子の間に漂うどこか禁忌じみた香りもいい。(この票の参照用リンク)
日常と非日常とその中間3つに分かれたけれども中間が一番心地よかった。何気にお母さんもイカれてるよね。(この票の参照用リンク)