第75期 #18

擬装☆少女 千字一時物語42

 十二月三十一日、午後六時。少年は今年最後の遊びを探していました。晩餐の準備は終わっていて、母親愛用の古いエプロンは椅子に掛けられていました。少年は母親に頼まれて食器棚から鵞鳥の丸焼きを乗せる大皿を取り出しましが、棚の隅にマッチを見つけてあることを思いつきました。母親のエプロンを借りた少年は、姉が着なくなったブラウスとスカートも借りて急いで着替えました。母親のエプロンは大きくて少年には似合っていませんが、それでも少年は満足してエプロンのポケットにたくさんのマッチを入れ、靴も履かずに外に出ました。
 今日はひどく寒い日で、雪も降り始めていました。たちまち体が足元から冷えていきましたが、少年は家には帰らず、壁際に膝を抱えて小さく座りました。降る雪は少年の髪を白く覆います。空腹も手伝って、少年の手はもうかじかんでしまいました。ああ、こんなときならばマッチたった一本の火でもどれだけ温かく思えるでしょうか。
 シュッ!
 それはなんと温かな輝きでしょう。少年の目はマッチの火に吸い寄せられて、それはまるで大きな暖炉に燃える炎のように見えました。ゆらゆらと揺れる炎は少年を捕らえて放しませんでしたが、しかしその炎は少年に捕らえられることはなく、すぐに消えてしまいました。少年が夢から覚めたように目を上げると、母親が少年の脇に立っていました。
「かわいそうなマッチ売りの少女さん、私の家で鵞鳥を食べていきませんか?」
「ありがとうございます。でもわたしはマッチを売らなければ家に帰れないのです」
 凍りついていた少年の表情は一瞬だけ動きましたが、すぐにまた固まってしまいました。
「それでは私があなたのマッチを全部買ってあげます。それなら良いでしょう?」
「本当ですか? ありがとうございます!」
 少年は家に飛び込むとすぐに濡れてしまった服を着替えて、今度はストーブの前に座りました。よほど堪えたようです。
「今年最後の教訓は?」
「やっぱりスカートは足が寒いね。よく女の人は我慢できるなって思ったよ」
「そういうときはストッキングとかを穿くものよ」
 くしゅん!
 返事の代わりにくしゃみが出てしまいました。
「ほらほら。女の人は体を冷やしちゃダメなんだから、無理はしないでね」
 母親の気遣いに、少年は女性の温かさを知った思いがしました。遊びではできないのかもしれないということを、香ばしい鵞鳥を食べながら少年は思ったのでした。



Copyright © 2008 黒田皐月 / 編集: 短編