第75期予選時の、#18擬装☆少女 千字一時物語42(黒田皐月)への投票です(4票)。
「女の子の格好をした少年を、母親がそれとなく受け入れる」というのがおおまかな骨の部分だとすれば、この小説の魅力は骨にあるのではなく、その肉づきにある。暖炉がよかった。鵞鳥がよかった。マッチがいい。
これらの小道具のセンスの良さが、この小説の底辺にながれている奇妙な倒錯感のアクをみごとにすくっている。外国の古いおとぎ話をひさしぶりに読んでいるような雰囲気のなかに、少年の姿をかりた年上の男の、強い女装願望がむらむらと漂っているのだが、それが脂くさくなるどころか、読み手を和ませている。これはすごいことだ。
たとえば、もしもおじさんが若い女から「スカートだけじゃ足が寒いから、そういうときはストッキングをはくものよ」と言われている小説を読んだとする。そうすると、私は強い違和感をおぼえる。そんな「若い女」、都合よすぎるからだ。つまり、この作品で使われているセリフは、普通の作家がつかえば作者の首をしめることになりかねないものばかりである。
「ほらほら。女の人は体を冷やしちゃダメなんだから、無理はしないでね」
このセリフも女性が男性に言っていると考えると、それを普通に読ませるどころか、ここに感動があって、おまけにコメディーとしても笑えてしまう。なんとすごい技術だろう。
最後に、セリフのながれが気持ちいい。唐組の芝居みたいだ。「私の家で鵞鳥を食べていきませんか?」の一文、母が子に言ってるのに、どうしてこれほど淫靡なんだろう。その秘密を教えてもらいたい。
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この作品も情景が美しい。女性に対する憧れと現実の落差などがきちんと描写されているのがいい。季節物にはどうも評価が甘くしてしまうような気がするが、これは文句なしによかった。
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