投票参照

第75期決勝時の、#23背中(K)への投票です(3票)。

2009年1月7日 17時39分3秒



・「世界の死」について

「世界の死」もきれいな短編小説だとは思うけれども、あえて決勝なので作品以外の部分について語らせてもらうと、私は作者のウェブページに載っている詩のほうが好きだ。難解で理解を拒む現代詩が流行のなかで、作者の書いている詩は、まったくの素朴な自分の言葉で書かれている。珈琲を飲む孤独な男に会いにいくものの、何も話さずに二人で珈琲を飲む、という詩などはどうしてこれを短編にしなかったのか、と文句がいいたくなる。

それに比べればこの「世界の死」は死や夢といった言葉に重みが感じられない。他の誰かが書いている話のうわずみだけを拾ってきたような感じさえする。

この点でいえば、予選落ちしてしまったけれども、今期の「雪」はいい小説だった。言葉や比喩は「世界の死」より単調であっても、主人公に背負っているものがあって、それが作品に現実そのものではないが限りなく現実にちかく感じさせるリアリティをうんでいた。なので、「世界の死」は推さない。


・「擬装☆少女 千字一時物語42」について

予選で投票した。私の好みでいえば優勝レベルであるが、この種の作品には本当は優勝などしてほしくない。私以外の多数に理解されたくない、という読者ならではのわがままが働く。世間の評価では常に4位あたりの普遍性を持ちつつも、10人のうち1人には熱烈な賛同者を得るようなテーマなのだと思うから優勝してしまうと作品の質を心配してしまう。人気と実力は常にイコールではない。

独自のドラマトゥルギーをさらに発展していってほしいです。決勝では好みでいえばダントツ優勝、だが完成度の点で「背中」がいいと思った。「背中」と同時期に投稿されていることが作者にとっては悔やまれるかもしれないが読み手にはうれしい。

・「背中」

予選で投票した。1000字という文字数に無限の可能性を感じさせてくれる作品だと思う。短編は10代からひょっとしたら80代くらいまで読んだり投稿したりしているんじゃないかと思うのだが、どの年代が読んでもそれなりに感じるところがある作品だと思う。ちょっと難しい気もするけれども、一度信頼して読むとこれくらいにみっちり描写されている方が何度も読める。使いすての刺激的文章の多い時代とは逆を行っている点が新しい。オオエやミシマを読むことがカッコいいことだと思っていた世代の読者や今でも生き残っている文学青年たちも手にとるだろう。ケータイ小説などとバカにしてくる輩にはぜひともこの「背中」を読ませるべきだ。

決勝にはこの作品を投票する。「でんぐりがえし」に驚いた。1000字なのに物語がここで大きくうねる。まさかこの気難しそうに朝から子泣きジジイのことを考えるような男が、すべてを論理的にしか考えられないようにみえる男が、唐突にでんぐりがえしをするだろうか? しかし、きっとするのだ。

冒頭の「頭でっかち青年」(まあそれも貴重だ)という類型を見事に逸脱した「でんぐりがえし」に脱帽するとともに、急にイロケのイもみせなかった主人公の影からでてくる女の存在がなんとエロいことだろう。「寝起きのかすれ声」という一文は今期最高にエロく、こういう知性のあるエロを描けるのかと予想をこえて驚いてしまった。作者のウェブページを読むと私よりもずっと哲学に詳しい人みたいだが、哲学とは悲劇をいかにも生真面目なふりして喜劇に変える文学的方法だと私は思っている。その点で読むとこの話は上質な喜劇となりうる。つまり高度な哲学を内包した小説といいかえられて、読み手はしらずしらず悲劇を喜劇にする法を教えてもらえる。

小説というのはたった一文でこうまでも世界観をがらりと変えてくれるジャンルであったか、と再認識させてくれる作品だった。私もでんぐりがえしをしよう。

参照用リンク: #date20090107-173903

2009年1月2日 9時26分24秒

済みません。いろいろ書きましたが、今期は最初からこれひとつしかないと思っていたのでした。(黒田皐月)

参照用リンク: #date20090102-092624

2009年1月2日 8時17分58秒

今回の中では、これがダントツだと思いました。

参照用リンク: #date20090102-081758


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