第60期決勝時の投票状況です。11票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
30 | 彼方 | 壱倉柊 | 5 |
5 | 蜜柑 | 森 綾乃 | 2 |
23 | 保険金詐欺とばれて親指も保険金も失った春に | 咼 | 2 |
- | なし | 2 |
やっぱこれでしょう。(この票の参照用リンク)
僕はこの作品の中に暴力を感じた。主人公は(勿論僕たちも)いいかげん良い年齢になるとしたたかに愛想笑いを作ったり「あぁあの頃は若かったからね」なんてまるで過去の自分を別人のように言ってみたりする(昨日NHKで太田光がそんな話をしていたような)。でもそんなに大人になったからといって立派になるかといえばそういう訳でもなくて主人公が上司を殴ったという冗談は実は本当のことだと思う。彼は抑圧された破壊欲(懐かしきガンズ)を未だに抱えていてその衝動はきっとまだまだ長く続くように思える。そんなことを思ったのは文体が嫌に本来あるべき自我の欲求からかけ離れた微妙なニュアンスを与えているような感じがしたからです。それが僕には不気味に感じられ何とも言い難い(だけど分かる)印象を受けました。「パンチドランク・ラブ」の主人公みたいな。(公文力)(この票の参照用リンク)
決勝進出の三作は、どれも語り口が上手いと思います。作品世界の雰囲気に、語り口が合っています。また、それぞれ含むものがあるようにも思います。それぞれに異なるものですが、表面にあるもの以外の何か、心のようなものがあるように感じられました。
その中で、最も共感できたこの作品を推します。(この票の参照用リンク)
予選の時に気になっていた最後の
「あれから僕は、生物に対して少しは優しくなれたのでしょうか。」
も、語り手の投げやりさが出てるように思えてきて味わいぶかい。クリシェはじつは世の中を舐めていることの表れなのかも。この語り手、実は世界にぜんぜん執着がないのかもしれない。なんてな。
他の二作は自分のことが大好きな人が書く文章の香りがする。小説は紙ひこうきのように作者の手から離れたら読者っていう風を受けて時間と空間を越えて飛ぶのがかっこいい。(この票の参照用リンク)
予選で投票した作品故。
あらためて三作を読み比べると、「蜜柑」は感傷的すぎて気持ちが悪い。「保険金〜」は文章中に不自然な部分がある。もっともよくまとまっているのが「彼方」である。
本作では、取り入れたい素材も面白かったし、祖母と語り手との距離感も自然に感じられた。文章にもそつが無かった。(この票の参照用リンク)
予選通過作はどれも面白く読ませて頂いた。千字でいろいろなことが出来るものだと改めて感心させられた。中でも『蜜柑』が、自分には最も親しく感じられた。改めて読んで、擬音語・擬態語が多用されているせいかと思ったが、孤独を掌に載せて測るような繊細な感覚は独自のものがある。ちなみに芥川龍之介に同じ題の有名な作品があるが、それを連想するとなお興趣を覚えるかも知れない。
『保険金詐欺(略)』は、まあ色々と反則だなという感じはあって、たとえばこのタイトルは一文めにつなげて読むのであろう。上等の反則感は小説の一つの武器であり、この作品の場合は好感の持てる太々しさであったと思う。
三作のうち、背後に隠しているものがいちばん大きかったのが『彼方』であろうと思った。『保険金詐欺(略)』も確かに前後の事情によく判らぬところはあるけれども、それは判らぬままに放っておくべきもので、書かれた部分だけを読むよりないが、『彼方』は書かれていない事柄に連想を誘う、その力が大変強いと感じた。なんとなく中上健次を連想した。(海)(この票の参照用リンク)
最後の人工の甘さ(誤字ですよね)という語の比喩で綺麗にまとまっているなと感じました。1000字の中にいびつな蜜柑と艶やかな缶詰、醜さと優しさがこめられているのにもかかわらず読みやすく、感情移入もしやすかった作品だと思います。(この票の参照用リンク)
『蜜柑』は、自虐的でありながらところどころ自意識過剰な表現が顔を覗かせ、そこが少し鼻につきました。具体的には一段落目。
『彼方』は、肉親の死・動物・主人公の成長という反則的な題材を使っているにも関わらずこれといった感慨が沸きませんでした。祖母がもう少し魅力的に描かれていたらまた違ったと思います。
『保険金詐欺とばれて親指も保険金も失った春に』は、パンチが無い作品でしたが、チンピラが出てくるくだりなどは独特の世界観で、とても面白く読みました。また、一見尻つぼみにも見えるラストがちょうどいい具合に暗示的で、そこも好きでした。(この票の参照用リンク)
予選で選んだが読み返してみても印象は変わらず。三作品中、もっとも読んでいて興味が向いた。(この票の参照用リンク)
物足りない、というのが正直なところ。
懐古趣味と言われるかも知らないが、桑袋弾次氏の作品(http://tanpen.jp/authors/22-7.html)やら江口庸氏の作品(http://tanpen.jp/authors/12-11.html)やら林徳鎬氏の作品(http://tanpen.jp/authors/7-2.html)やら、そういった無闇に灰汁の強い個性が出てきてくれないものかなと思う。(この票の参照用リンク)
どの作品も、私には少しセンチメンタルすぎました。(長月)(この票の参照用リンク)