第180期決勝時の投票状況です。5票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
9 | いつか私を殺しにくる | euReka | 2 |
11 | 川向の喫茶店 | テックスロー | 2 |
7 | 闇と光と | わがまま娘 | 1 |
正直、どれも微妙だった。
これがものすごい面白い!! というのがないのがちょっと悔しい。
これが一番温度を感じたので、こちらに。
他は、字面だけ追っていました。(この票の参照用リンク)
今回、私の予想は大幅にはずれた。というか、ずば抜けた作品がなかったからか。一押しであった「遠い西洋」は撃沈し、予選通過した作品の中に票を入れた作品は一作しかなかった。
「いつか私を殺しにくる」
この作品単独で見れば、あるレベルに達していると思う。ただ、作者の作品を群で見た場合、この作品にあまり魅力を感じはしなかった。こういった単体以外での評価の方法は間違いなのかも知れないが、作者の作風に魅力や憧れを持っている私にとって、群の流れの一部として捉えることは、毎月毎月、読んだ積み重ねだとして解釈してほしい。
セオリーが浮き立ってしまい、力づくで作り上げた感覚をまず持った。だから、悪魔で個人的な感覚に従えば、伏線のような効果ではなく、すべてがこじつけに見えてしまったということになる。でも、予選通過作の中では一番良かった。
「川向の喫茶店」
脱サラして喫茶店を構えたということは、主人公の意思で喫茶店を構えたと解釈できる。でも、経済活動禁止の喫茶店経営は「脱サラ」に値するのであろうか。「脱サラ」か「追いやられ」かの違いが、作品の根幹でもあると考えるから、そこでまずつまづいてしまった。
経済活動ができない、国の保護下ということは、今でいう「生活保護」に値すると思う。税金を使ってインスタントコーヒーを淹れる。だったら、コーヒーを淹れるスキル(何かを極める)を身につけなければ、何のために主人公は存在しているのであろう。そして、そのコーヒーをすする老人も老人でインスタントコーヒーの対価を提供する姿勢が分からない。
(ん、ちょっと待て)
「川向の住人は一切の経済活動から身を……」と言うことは主人公の目線は川のこちら側(主人公の目線は常にビルのある側から経済活動禁止の川向を向いている)にある。と、なると冒頭「脱サラして川辺に喫茶店……」の川辺とは川のこちら側(ビルのある側)ということも成り立つ。でも、経済活動ができないということは、川のあちら側(川向)を言っていることになる。あー、もう分からない。誰か解説できる人いますか。
全てが夢想であると仮定するなら、実際の主人公はビルの側にいるのではないだろうか。そんなことも考える。
「闇と光と」
作者の最近の作品は、テーマである「家」をからめれば良し、というような書き方で好感が持てない。「家」は単に場所であり、そこでどう人間が動くかが重要なのではないだろうか。その動きが書かれていない。それが、私の消化不良の原因である。
今作では、隣の住人の言葉が重要な要素になると思うが、それを言わせるだけ言わせておいて、そう言わせた理由や主人公と隣の住人との関係性、主人公が何故、死のうとしているのか、なんてものが全て抜け落ちてしまっている。他の作者であれば、そういった書き方もまたありか、と思わせる可能性もあるが、この作者には良くも悪くも、もっと丁寧な描写を期待している。別の見方、次作に続く要素と捉えるならば、連作の希望もあるが、「アプローチ」以降で連作の線はないということがわかってしまったので、どうも後味が悪いのである。(この票の参照用リンク)
良い点:
・「AI」などのSF的な設定が上手く盛り込まれており、なおかつ現代と近い設定になっているので話に入り込みやすい。
・途中で飽きることなく最後まで読むことができる。
・「AI」などの機械に支配される世界は個人的に興味のある話題だった。
不満点:
・少し分かりにくい部分がある。(「効率化は仕事からノイズを奪っていき、標準化はAIへの引継書として機能した。」「昨日と同じだけの賢さ、もしくは愚鈍さなのに、今日は仕事が終わってる。」)
・飽きることなく読めるが、型通りのSFという感じもする。
・SF的な設定を描いただけで、主人公の葛藤がない。(euReka)(この票の参照用リンク)
決勝投票だけの参加になって申し訳ないです。三作品の中だと、こちらの作品が印象的な要素と挑戦的な要素を併せ持っている為、一票投じます。面白い発想だなという作品でした。(三倉 夕季)(この票の参照用リンク)
#7
三つのなかでもっとも好みな作品。
再読して、冒頭ですでに隣の部屋の住人との距離感が描かれていたことに気づいた。さらに次の一文、
「人工的に作った真っ暗闇の空間はやはり人工的で、明るい日は陽の光が闇の隙間から漏れ入ってくる。」
これが語り手の状況を表す比喩であり、かつ展開の伏線にもなっている。隣の部屋の住人は語り手にとって、ふさごうとしても隙間から入ってくる陽の光なのだろう。その視点で読むと、初読ではインパクトしかなかったラストの台詞の裏に温かみが感じられる。また、生きて死ね、と言いながら飯を食うのも、生きる側としてのスタンスを表現するのに効果的だと思う。
難点は、予選でも書いたが人物がわかりづらいこと。誰とも距離を縮められない語り手の精神状況を表す効果は認めるが、頑なに部屋を基準とする必要性など、もう少し見直す余地があると思う。あとは光と闇の題材が安直かなというところ、なぜ死を望むのか不明な点だろうか。ただ死を望む理由は、書かれたところで意味を持たないかもしれないが。
#9
読んでいて気づいたが、この方の話では基本的に人が死なない。死にそうにないというか。冒頭の痛みに対する消極的な説明もあって、いつか殺しにくる、の説得力が感じられず、途中が茶番にしか見えなかった。痛みがリアルでなければ人殺しもリアルではない。さらにとってつけたような、子どもができて結婚の流れが、浮わついていて陳腐に感じられてしまう。
作者さんの作品は軽妙な語りと展開が特徴的だと思っている(いい意味で、騙されることを楽しむ、ピエロのショーを連想する)。今回はその軽さが逆効果だったように思う。
#11
一読して、近未来SF的内容が千字にまとめられていることに驚いた。AI技術の発達によるディストピアはそれなりに説得力があるし、思考力を奪われた主人公の描写もうまい。マニュアル化された台詞も皮肉が効いている。
ただ他の方の感想でも指摘されている通り、矛盾していると思われる点があり、読んでいて惜しいなと思った。特に気になったのは、主人公が「それはおかしいのでは」と気づいたように到底思えないこと。あと「川向の住人は一切の経済活動から身を引かねばならない。」の一文が主人公の視点と合っていないこと。
#7と#11で悩んだが、どちらも完成度という意味では隙があるなかで、再読時に新たな発見があった#7に一票。(この票の参照用リンク)