第180期決勝時の、#7闇と光と(わがまま娘)への投票です(1票)。
#7
三つのなかでもっとも好みな作品。
再読して、冒頭ですでに隣の部屋の住人との距離感が描かれていたことに気づいた。さらに次の一文、
「人工的に作った真っ暗闇の空間はやはり人工的で、明るい日は陽の光が闇の隙間から漏れ入ってくる。」
これが語り手の状況を表す比喩であり、かつ展開の伏線にもなっている。隣の部屋の住人は語り手にとって、ふさごうとしても隙間から入ってくる陽の光なのだろう。その視点で読むと、初読ではインパクトしかなかったラストの台詞の裏に温かみが感じられる。また、生きて死ね、と言いながら飯を食うのも、生きる側としてのスタンスを表現するのに効果的だと思う。
難点は、予選でも書いたが人物がわかりづらいこと。誰とも距離を縮められない語り手の精神状況を表す効果は認めるが、頑なに部屋を基準とする必要性など、もう少し見直す余地があると思う。あとは光と闇の題材が安直かなというところ、なぜ死を望むのか不明な点だろうか。ただ死を望む理由は、書かれたところで意味を持たないかもしれないが。
#9
読んでいて気づいたが、この方の話では基本的に人が死なない。死にそうにないというか。冒頭の痛みに対する消極的な説明もあって、いつか殺しにくる、の説得力が感じられず、途中が茶番にしか見えなかった。痛みがリアルでなければ人殺しもリアルではない。さらにとってつけたような、子どもができて結婚の流れが、浮わついていて陳腐に感じられてしまう。
作者さんの作品は軽妙な語りと展開が特徴的だと思っている(いい意味で、騙されることを楽しむ、ピエロのショーを連想する)。今回はその軽さが逆効果だったように思う。
#11
一読して、近未来SF的内容が千字にまとめられていることに驚いた。AI技術の発達によるディストピアはそれなりに説得力があるし、思考力を奪われた主人公の描写もうまい。マニュアル化された台詞も皮肉が効いている。
ただ他の方の感想でも指摘されている通り、矛盾していると思われる点があり、読んでいて惜しいなと思った。特に気になったのは、主人公が「それはおかしいのでは」と気づいたように到底思えないこと。あと「川向の住人は一切の経済活動から身を引かねばならない。」の一文が主人公の視点と合っていないこと。
#7と#11で悩んだが、どちらも完成度という意味では隙があるなかで、再読時に新たな発見があった#7に一票。
参照用リンク: #date20171005-140244