第177期決勝時の投票状況です。4票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
1 | さよならの先 | たなかなつみ | 2 |
8 | アプローチ | わがまま娘 | 1 |
10 | いまそこに風が吹いているから | euReka | 1 |
今期の個人的な推しは#4だったので決勝に残ってなくて残念です。
#8
どうも魅力を感じることができない。これは著者が悪いわけではなく、やや遠回しな関係性の描き方やゆったりとした語り口は素直にうまいと思う。なのであとは相性の問題、好みとかスタンスとかの微妙なずれなんだろうと思う。
#10
完成度とか安定感という意味では頭ひとつ抜けている。予選で途中までの説明が冗長と書いたが、逆に言えば説明でも読ませる力があるということで、読んでいるとなんかうまく感動させられたような癪な気持ちになる。簡潔に言えば、ずるいなー、もっと突き抜けてください、です。
#1
記号的な文体で乾いた流れかと思いきや、途中から珍しく酔っている印象。題材が若いというか、青いというか、うまく説明できないけど十代の頃を思い出してしみじみしたりした。記号的でありたいと足を踏み出しながら、記号化しきれない承認欲求とか、内臓とか、感情が溢れてしまうあたりにひとりの人間を見た気がしたので票を投じる。やっぱり内臓はみ出さなきゃだめだな。中身的な意味で。(この票の参照用リンク)
他の2作品は停滞しているので、唯一動きのあるこれに。(この票の参照用リンク)
予選のときの感想では書かなかったけど、男4人がなぜ同じ家に暮らしているのかや、姐さんと呼ばれる女性がなぜその家に出入りしているのかということについて全く説明しないというのはちょっと面白いなと思う。それはとても平凡な理由かもしれないし、あるいは込み入った事情があるのかもしれないが、あえて説明しないことで、まるでその空間や状況だけが外部から切り取られたような感覚になってしまう。
でも、物語を作るということは、そうやって空間や状況を切り取ることで形を作っていく行為でもあるわけだから、何を書くか(説明するか)だけでなく、何を書かないか(説明しないか)ということも意識的に行うと面白いのかもしれないなと思う。(euReka)(この票の参照用リンク)
「さよならの先」は予選票を入れなかったのではずす。
「アプローチ」は不完全さがたまらない。ただ、予選を通過する力はあっても、決勝となると、その不完全さをそのまま評価していいのかと、戸惑うところもある。「アプローチ」は何か変な小説である。要は私が作品の「変さ」を容認できるかである。
「いまそこに風が吹いているから」はよく考えられて作られた小説である。だから、破綻は極力排除されているし、万人に分かりやすい印象を持つ。ただ「アプローチ」とは逆に好印象に飲まれてしまっていいのかとの疑問もある。
作者が以前に言っていた時間の解釈をからめて毎回読むようにこころがけているのであるが、なかなかそこを理解するまでには至らない私である。
「読みやすい」との作品評価を見ることがあるが、私は「読みやすい」にあまりいい感情を抱いていない。「写真みたいな絵」と絵画をほめることがあるが、私は「写真みたいな絵」とは侮辱であると考えている。私は小説の「読みやすい」にも「写真みたいな絵」に似たニュアンスが含まれていると思っている。ただ、難しい言葉を多用しない小説は好きである。(この票の参照用リンク)