第68期決勝時の投票状況です。10票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
20 | 九龍 | sasami | 5 |
22 | ホーム | 川島ケイ | 2 |
17 | 存在のゆらめき | 宇加谷 研一郎 | 1 |
- | なし | 2 |
忘れないうちに投票。面白かったです。(この票の参照用リンク)
空行をはさんで3つのブロックに分けるとして、最後のブロックだけ妙に隙が目立ちますが、それさえも荒削りな可能性の芽だと肯定したくなるくらいの魅力があります。
特に第2ブロックなんて、押し付けがましくない輝きに満ちている。いいなあ。(この票の参照用リンク)
この作品のひどく高い技術には驚くばかりです。センスも必要だけど、相当な読書量がないとここまでは書けないはず。 事件性のない物語で(しかも1000文字で)、自分の世界を完成させるなんて、並みの人ができることではないでしょう。 次の作品が楽しみです。(この票の参照用リンク)
作品感想に私的体験をからめて申し訳ないが、私は壁にむかってバレーボールを打つのが好きだった。ボールは程よい高さに戻ってきて、いつまでも続けられた。ボールを自分がコントロールしていたから、という理屈があったわけでもなくただ気持ちよかったからである。
小説を書いていて、つい「読者」だとか「テーマ」だとか、はては「文学賞に入選するためには」と、どうも実用的なことばかり思い浮んでしまう今の私は、書くことに対して、壁にボールを打つような素朴な愉しみを忘れているような気がしているのだが、この作品「九龍」を読んでいると、1000字小説としての完成度の高さもさることながら、なによりも作者が楽しんで書いているのが伝わってきて、私は小説から離れて、つい部活動のころを思い出したくらいだった。
まず「完成度の高さ」の点で書いてみれば、この主人公の父親は亡くなっていて母親と二人暮しである。田舎町の中学生(?)くらいの女の子で「薫」という名前は父が<五月の朝>を意識してつけた。実に愛されて育った子供である。ひそかに反抗期に入っていて名前を「カオルーン」に変えてしまったが、それを母にはいつか教えてあげようと思っている……こういった“情報”が語り口のなかによどみなく溶け込んでいる。普通なら、この私の文章のような羅列になりがちなはずだ。これは書き慣れていないとできることではないと思って、私はこの技術力におどろいた。
とくに憎いのは、普通なら田舎町と書くか、固有名詞で島根や鳥取と名前をつけそうなところなのに、小泉八雲が「通った」町と書き、しかもその特徴を「真っ白いブッセ」で象徴的に書いているところ(!)などに、私はフツフツと怒りにちかいほどの、嫉妬を覚える。はっきりいえばこのレベルはプロである。学生のバレーボール大会に、若づくりして紛れこんだ中田久美だ! と私は憤ったのであった。
が、それは技術の話であって、この話自体は、たとえ書き手がどんな著名な人であろうと、はたまた本当のズブの素人の奇蹟の一作であろうと、そんな嫉妬を抜きにして読めば、一人の薫という女の子が、別に父や母に悪気があるわけでもないが、胸の中に広がるもっと大きな期待や予感のようなものに突き動かされて、香港あたりの、なにやら怪しそうな「九龍」に自分の名前を重ねてみて、その「カオルーン」の響きが気に入るところだとか、香港を選ぶ感性を育てたであろう小泉八雲の著書との出会いが、図書館のシミのついた本だったことや、そういった本の世界がどうしても空想とは思い切れない気持ちを「視界の隅に本がちょっと入るようにしておきたい」と書くところ、そういった気分を母親に言ってみたくても、世界を表現するのに自分には言葉がまだまだ足りない、ともどかしくなったり、しかし、そんな言葉にできない感情は料理によって表現されることもあることを無意識のうちに悟りながら、おそらくジャガイモの皮むきをしている・・・・・・ところなど、まさに一人の人間の感覚が描かれている気がして、こういう作品は計算で書けるものではないのだろうなあ、と思った。そして、(気づく人だけ気づけばよい)といった矜持のようなところが文章のはしばしにあって、きっと文章だけではなくて、生活全般においてのセンスがいいんだろうと思う。
ひとつ文句をつけるとすれば、作者はまだ初投稿の方であるし、大正時代ならともかく現代において、文学は消費されるものとなっている。この完璧な作品は69期にはほとんどの読者に忘れ去られるだろう。この作品に溺れることなく、あるいは(「短編」なんて楽勝ね!)とナメてしまわずに、つづけざまに投稿してほしい(などと勝手な感想をお許しください)。
ありがとうございました。
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これだれ?
http://tanpen.jp/vote/68/pre/0.html#date20080531-235327(この票の参照用リンク)
不思議な気配。(この票の参照用リンク)
「空いているベンチに座ると、夜風に冷やされたアルミの感触がスカート越しに伝わってくる。」というところで、一旦停止してしばらく考え込んでしまいました。正直、作品全体としてはあまり好きではないのですが、書く身として、この一文からとてもいいヒントをもらえたと思っているので、それだけで幾票にも値すると信じて投票します。(この票の参照用リンク)
千字小説の登場人物である高島を斬って紙に戻した猿は小説の登場人物なのか否か。氏の作品『虎ノ門』でそのあたりが曖昧にされていて、そのことが重層的な世界に見せているような気がする。そう見せるためにはその世界がしっかり描かれていなければならず、この作品はそれを満たしていると思う。
それならば毎期投票しなければ嘘なのかな?(黒田皐月)(この票の参照用リンク)
(ひかえめに。そっと。だがしかし確かな迫力をもって。)(この票の参照用リンク)
「なし」とnothingって似てますね(この票の参照用リンク)