第240期決勝時の投票状況です。10票を頂きました。
# | 題名 | 作者 | 得票数 |
---|---|---|---|
10 | そして石になる | 朝飯抜太郎 | 4 |
4 | 国内および国家間の不平等を是正する | テックスロー | 3 |
3 | 魔法使いの末裔 | たなかなつみ | 2 |
- | なし | 1 |
今期は1000字のなかにシリアスとコメディを盛りこんだこちらの作品に投票します。限られた字数でテンポよく、うまくまとまっていたと思います。ほかの2編も味わい深い作品なので悩みましたが、今期は波長のあう作品に一票です。おもしろかったです。(宵一)(この票の参照用リンク)
石切り……ではなく水切りみたいにテンポよく進む話が心地いい。15年か……15年は、長い。20年はもっと長いけど。流されたまま15年、担ぎ上げられて石になった主人公の魂よ安らかたれ。(この票の参照用リンク)
#10 そして石になる を推薦します。
創作活動とかしない人や千字作品に馴染みがない人も楽しめるのは本作かなと思う。広い対象にアクセスできるエンターテイメントの力があって強いかと思った。
もちろん書くべき情報の取捨選択が研ぎ澄まされていて、技術的な面でもクオリティが高い。
#4 国内及び国家間の不平等を是正する
これが優勝してもいいかなと思う。
サステナブルという言葉が巷に溢れ、スーパーのビニール袋は有料化し、私たちの経済活動は権威ある概念に大きく影響を受けている。SDGsもその一つである。私たちの国には「三方良し」という近江商人の言葉があり、その概念を社訓にしている企業もあり、現代でも影響力のある言葉ではある。しかしこの作品のタイトルは「国内及び国家間の不平等を是正する」でないとならない。本文とタイトルの重さがほぼ等しく感じる。
太平洋戦争の国威発揚に桃太郎が使われたことを受けて、芥川龍之介がそれに反発した桃太郎を書いた。本作もそういう現代日本をうつす鏡としての桃太郎の文脈の上にあるのだろう。
小賢しくなりがちなテーマだが現実から浮かないのは、みんなで一緒にご飯を食べようとしているおばあさんの存在が大きい。おばあさんの平等は、クラシックであり、そして一番現実的であり、物語の成り行き上、温かみさえ感じてしまう。しかしその誘いを断ろうとする猿は、富める国の象徴である一方、会社の飲み会を断れるようになった若者の姿にも相通じる。廃れゆく平等の姿と、新しい平等の姿とが、対比されていて、安心と不安があり、郷愁と革新もあり、作品の完成を感じる。
SDGsや社会風刺みたいなのをそっくり抜きにした場合に、桃太郎パロディが面白いかわからなかったので、選ばなかった。刺さる人には刺さる系だなと思った。
#3 魔法使いの末裔
魔法使いの設定が少し破綻していると思った。
日本社会の場合→名前を変えて子供と美容師の両親が普通の生活することは難しいし、医療行為のできる研究機関ならば、資金も権力も潤沢にあり、追いかけるのは可能だと思う。
日本社会じゃない場合→変装・変名・引っ越しで研究機関からの追手を巻くことが可能なゆるめ社会ならOKか?
「そんなことはいいから好きなように生きなさい」は、親の跡を継ぐとかは考えなくて良い、と言う、親の子供を思う気持ちが表現されていると思うが、美容師の力で見た目を変えて自由を手に入れている以上、親元を離れたり、親と死別したりした後のことを考えれば、美容師以外の職を選ぶことは、その職と両親並みの美容師の技術を両方習得しなくてはならないハードな選択であり、私は読み流せない台詞に感じた。
子供の異能の表現は文字数を使っているだけあって繊細で新しさがある。一方で、純真で健気な子供と、子供を庇護する両親の頼りになる様子、敵が研究機関、という物語の大枠は凡庸で綺麗すぎ、物足りない感じがする。(この票の参照用リンク)
やはり本作を推します。細かいところは置いておいて、そのシュールな結末を、シリアスな展開との落差で楽しむ一作でしょう。
もし石化された人は痛みも苦しみも意識もないのであれば、回路が形成されていようと、その人の形を取ったただの石であり、その回路が何の意味を持つのかは分かりませんでした。接触で石化するのなら工具を介してなら大丈夫なのか、一枚岩ではなかった”奴ら”がケイ素型知的生命なら、”宇宙より来訪。全人類に対して意識浸食して去”ったあと、反石活動チームは彼らとどのようにして接触を持つことができたのか、まぁ、考え出したらキリはありません。あまり考え込まず、単純に楽しんで良い作品だと思います。
『魔法使いの末裔』は、貴重な研究対象であれば情報は秘匿されたことでしょう。単に様々な音が聞き取れるのであれば、世間が騒ぐような特殊能力でもありませんし、一方でどんな秘密通信でも傍受できてしまうのであれば、国に隔離されて親とも連絡が取れなくなるでしょう。『鬼滅の刃』の我妻 善逸は人の心音の変化を聞き取ることで、その人の感情の揺らぎすら把握する能力の持ち主でした。ある視覚障碍者は舌打ちのような反響定位(エコーロケーション)で話し相手の身長・体型まで読み取る、などとも聞きます。本作の受信能力がその程度なら、そこまで大騒ぎするほどの話でもない気がしてしまいました。
『国内および国家間の不平等を是正する』では、桃太郎の猿への「じゃあ猿は何のために戦ったの?」に「では、あなたは?」と聞き返したくなりました。鬼と見なされた少数民族が、桃太郎らの無慈悲な侵略行動に敗れ去って、全てを奪われた悲哀を芥川龍之介は描きましたが、本作では敗れ去った相手に対して自分たちが何をしたかについてあまりに無自覚で、読み直して嫌悪を新たにしました。(この票の参照用リンク)
平易な文章でありながら、無駄がない。
キャラが立っているので物語の進行に納得感とリアルさ、新鮮さがありつつ、現代的な概念にまつわる考え方と矛盾と類型を入れ込む完成度の高さ。隙が無いように感じる。
初読では「魔法使いの末裔」を推したけど、何回読んでもまとまりの良さ、完成度に唸らされるのでこっち。(この票の参照用リンク)
それぞれのキャラが立っており、納得できるわけではないけど言動に「なるほどね〜」と思えるところがあって面白かった。おばあさんの「飯食ってけ」に「いや俺もっといいもの食べるから」って答える猿の頭の悪さとか、変なリアルさがあって笑った。
「そして石になる」は落語みたいな話で笑ったし、「魔法使いの末裔」は雰囲気が好み。決め手は印象の強さといったところです。(この票の参照用リンク)
何回読んでも面白い。読みながらつい、自分ならどういう受け答えをするだろうと考えてしまうのが、悔しいけどうまいなぁと思う。
たぶん自分は雉っぽいけど、それでもいくらか分け前は欲しいと主張すると思う。その辺、自分は雉になれない猿かな……
前提なしの分け方がそれぞれらしさが現れていて面白いけど、雉の分がないので、雉ならどうするのかなと考えてしまった。(この票の参照用リンク)
#4はテーマに対する切り口や見せ方がうまい。各登場人物(人物?)の意見の違いがネット上で見かけるレッテルを想起させ、読み手に内省させるよう自然と促しているように感じた。他の方も書かれているが、どの意見も同じだけ気持ち悪く、他者との隔たりを浮き彫りにし、相互理解という考え方自体もまた気持ちの悪いものであることを示唆しているように思う。本作はほとんど鼻につかないものの、題材の関係上説教くさく感じてしまうのが難点。あとはラストの「猿は。」の言い切りが投げに感じられてしまった。
#10は1000字にここまでSF的背景とドラマを詰めこんだ手腕が見事。思わず読み手がつっこみたくなる遊びも楽しい。若き日の色恋沙汰におけるひとり突っ走って自爆するパターン、苦い思い出を蘇らせてきてなかなかにきつい。わかってて書かれているだろうけど、解決法について一枚岩云々で終わらせてしまうのがどうしても引っかかってしまった。
#3は能力の見せ方、親との関係性の描写がよかった。まっすぐな視点とその危うさが、思春期あたりの少女の語りとしてしっくりきた。一方で予選にも書いたが、ニンゲンやタダシイのカタカナ表記がうるさく感じた。そこも語り手の属性に繋がっているのはわかるが、通常の表記であったとしても本作の魅力は損なわれないのではないかと思う。
というわけで、題材の好みによるところが大きいが、人物や関係性の描写が最も魅力的に感じられた#3に票を投じる。(この票の参照用リンク)
この中では一番引っ掛かりなく読めた。
作中で経過した時間を主人公が確かに体感していると思えたのと、魔法使いの末裔であろうとそうでなかろうとこの主人公は揺らがないと感じられたのでこれに投票。(この票の参照用リンク)
3作品ともイマイチぴんとこなかったので、今回は票無しにしたい。
『国内および国家間の不平等を是正する』は、少し心をくすぐるものがあったけれど。(この票の参照用リンク)