第41期 #7

ポケット

 あたしのぽっけのなかを見せてあげるわね。いい、ちゃんと息をして、足は伸ばしてくつろいで。

 これはね、幼稚園のときに壊したブランコの鎖。もう切れそうだったのよ。それで使用禁止の紙が貼ってあったのを、こっそりほどいて乗ったのね。左に傾いてブランコは揺れたわ。左に少しずつ自分が流れていくような気がした、って、そのときはね思わないわよ、あんまり小さかったから、ごっそり流れちゃったのかもしれない。そのときにね、あたしなんてちっぽけな女の子のからだで、もう流れちゃってたかもしれない。とにかく気持ちよかったの。飛ぶのってあんな感じなのかな。でも、そう長くは飛べなかった。すぐに地面とご対面したわ。痛っと思った時には左手から血が流れてた。そっとひらくと、切れた鎖を握っていた。錆びなんだか自分の血なんだか、黒くて赤いもので、今思えばさ、あれは生きている色なんだと思うわけ。生きてかなきゃならない色。そういうものを人に見せちゃいけない気がして、砂場の横の水道で洗った。手の皮が剥がれそうなくらいに何かを洗ったのは、はじめてだった。それで、飛ぶことはあきらめたの。正確に言えばあきらめたのではなくて、あたしはぽっけのなかで今も飛んでるんだけど。ごめんごめん。ぽっけの中身話してたんだったわね。くだらないものよ。くだらないもののために時間はあるのよ、知ってる? 石、でしょ、押し花でしょ、鳥の羽。それからオルゴールの鍵。これはね、どこに行ったかわからないのオルゴールの鍵。鍵だけ持っててもって思うでしょ。でもね、どこかで蓋が開いて鳴ってるはずなの。鍵を持っていれば自然と足が向かうのじゃないかしら。ふふ。それにしても、やっぱりくだらないことだわね。あと、はじめて作ったペーパーナイフ。これ、ぽっけに入れてて自分の横腹切ったことあるのよ。ちょっと切ってみる? 手、貸しなさいよ。ほら、十年前のペーパーナイフで切ったって、意味なんてないんだから。あら、意気地なしね。あとは、ぶたの指人形とママの口紅。そうなのよ、あたしったら大好きなママをぽっけに入れるの忘れてて。ママはあたしの自慢だった。妖しい唇がとても素敵で。ああ、だいぶ入ったわね。なかの居心地はどう?あなたを入れると何が残るのかしら。楽しみだわ。



Copyright © 2005 真央りりこ / 編集: 短編