第41期 #8
昔むかしあるところに、まるで絵にかいたような、それは幸福な一家が住んでおりました。
お父さんは絵にかいたようなりっぱな口ひげとお腹の持ち主で、お母さんは絵にかいたようにやさしくきれいで、つやつやとしたほっぺをした絵にかいたようにかわいらしい娘が一人おりました。絵にかいたような庭には絵にかいたような鳥の巣をつけた立派な木が生えており、芝は絵にかいたように青々として絵にかいたような犬が元気にはねまわっておりました。
ある朝のことです。絵にかいたような家族が絵にかいたようななごやかな朝食をとっていると、パンにつけるバターがどこにもありませんでした。バターがないとせっかくの朝ごはんがだいなしです。しかし絵にかいたようなお父さんは絵にかいたように悠然と立ち上がり、大きな声で落ち着きはらってどなりました。
「バターがないじゃないか!!」
すると画家がちいさなテーブルの上に、白い陶器のつぼに入った新鮮なバターを描き足しました。
そして一家はせっせとパンにバターをつけて食べに食べ、絵にかいたような楽しい朝食になりました。しばらくすると「満腹だ!!」とお父さんがでっぷりとしたおなかをさすってもう一度叫びました。絵にかいたような犬も、わんと鳴きました。
このようにして絵にかいたような家族が絵にかいたように仲良く暮らしておりますと、ある日、家のどこにも娘の姿が見あたりませんでした。都会からやって来た絵にかいたようなちゃらちゃらした若者と、絵にかいたように駆け落ちをしたのです。
娘のいない家の中は絵にかいたようにさびしく、お母さんは絵にかいたように青ざめておろおろと歩きまわり、犬は絵にかいたように所在なげにくうんと鼻を鳴らしました。しかしお父さんは落ち着きはらってしっかりと足をふみしめると、絵にかいたように威厳たっぷりにどなりました。
「娘がおらんじゃないか!!」
すると画家が玄関わきのマットの上に、新しい娘を描き足しました。
娘はぴょこんととびあがって両親に駆け寄ると、二人の首にいきおいよく両腕を投げかけて、両方の頬に音高くキスをしました。お父さんとお母さんは喜びの声をあげ、新しい娘を抱きしめキスをしかえしました。犬は嬉しそうに鳴きながらそのまわりをぐるぐると走りまわりました。
そうしていつまでも、絵にかいたようにしあわせに、暮らしましたとさ。