第41期 #9
確かに、途中まではうまくいっていた。指令通り作戦をこなしていたと断言できるのに……この惨状はなんなのよ!
世界は地獄の業火に包まれていた。そして私は無力だった。
目の前の炎の海は勢力を拡大し、熱気と肉の焼ける臭いはこちらにまで伝わる。
とっさに顔を覆い鼻をつまみ……しかしそんなことをしてもなにも変わらない。現実逃避にさえならないのである。
「こんな、こんな……」
灼熱の赤が膨れ上がる。
どうやら、油にも火が移ったようだ。
いよいよ爆発的に炎は広がり、緑は燃える端から黒く染まりゆく。事態の収集は、不可能。導き出される結論は、唯一。全てを放棄することしか……
「……こんなこと、私は認めないわよ!」
心は抗ってみるも、その意思を現実に変える手段はない。それどころかこのまま踏みとどまれば、私まで炎の舌に巻かれてしまうだろう。それだけは、避けねばならなかった。
役に立たなかった作戦指令書を破り捨て、私は叫ぶ、捨て台詞を。魂に誓う、復讐を。
「次こそは、必ず……」
「で、この悲惨な光景をどう申し開きするのかな? 我が妹よ」
手には紙屑となった作戦指令書──もとい“料理本”を抱え、私の兄は笑みを浮かべる。
背後の台所は大洪水、申し訳なさそうに食卓に並んだ肉と野菜も真っ黒くろすけ。いい意味でないのは、確実。
顔を俯かせて、上目遣いに兄を見上げた。
「その……たまにはお兄ちゃんの代わりにご飯を作ってあげようと思って……」
沈黙を挟み、付け加えてみる。
「……ちょびっと失敗しちゃった、てへ」
笑ってごまかすしかなかった。
「てへ、じゃないだろう」
兄の笑みが消えると同時、とっさに逃げ出そうとするが一瞬遅い。
「あてっ!」
料理本にはたかれ、痛む頭を私は抱えた。