第28期 #24

 まるで見知らぬ女が、かあいそうに、かあいそうにと、私の頭を撫でまわしている。どれほどか私の頭を撫でまわした後、右耳の失われた痕に気づいたのか、敏感になった傷跡を冷たい指が撫でまわしはじめ、そのあまりの愉悦に私が、うあぁぁと醜い喘ぎをあげると、それを窘めるように冷たい指が私の唇を弄び、歯や舌や歯肉までも甚振るように愛撫した。私はだらだらと唾液を垂らして、女の指先の冷ややかさを少しでも奪おうと、必死に舌を絡めようとするのだが、女はすっと指を引いてしまい、私の残された左の耳朶に冷たく柔らかな唇を押しつけ、かあいそうに、かあいそうにと、舌を窄め鼓膜を突くようにして、またも私が、あぅんと情けない声をあげると、女はすっぽりと私の左耳を口におさめ、かあいそうにかあいそうにといって、私の耳を噛み千切った。私が堪らずはしたないほどの叫びをあげると、女は満足そうに噛み千切った私の耳を嚥下し、女の細く長い喉を下っていく私の耳に、かあいそうにかあいそうにと懐かしいような優しさを込め囁くのを、私の噛み千切られた耳は、確かに、聞いた。
 
 蠢く肉壁を掻き分けながら、私は女の中にゆっくりゆっくり押し流されていく。私は確か私の噛み千切られた左耳であったはずだが、何故だかそれはもう定かではなく、皮膚が裏返ったかのように鋭敏になった全身を女の肉壁に弄ばれながら、もう殆ど激痛とかわらない快楽に喉元から押し上げられるような叫びをあげた。長い長い地獄巡りのような悦楽の後、遂には、女の奥底まで辿り着き、切り離された元の私の肉体が、女のだらだらと血を流し続ける肉壁に、筋の浮き上がった陰茎を、こそぐように前後させている処に出逢った。黒々とした私の陰茎は今ではもうすっかり血に染まっていて、肉壁の上方を狙い、ゆっくりと、時に突然に、その緩急を存分に味わうようにピストンさせていた。私はしばらくこの光景を眺めてから、頃合を見計らい、血に塗れた私の陰茎に飛びつくと、一番奥まで突き入れられた瞬間、私は私の陰茎を捻り切った。捻り切られた陰茎は、びくんびくんと大きく震えると、どくどくと白濁したものを溢れさせた。ぎゅうと肉壁が収縮する中、突然、白く濁った体液から立ちあがるように女があらわれ、私に覆い被さると、かあいそうにかあいそうにというのだが、それを確かに聞いたのが、私の左耳なのか、両耳を無くした私自身なのかは、もう解らない。



Copyright © 2004 曠野反次郎 / 編集: 短編