第28期 #23
クリスマスの飾りつけが溢れるこの季節にユミの一年の総括を拝聴するというのは、私と彼女の間で恒例行事になっている。ユミは昔から思いついたらすぐ行動するタイプで、高校卒業まで周りは随分とハラハラさせられた。その後予想通りに上京して音信不通になってしまったけど、なぜか私にだけは一年に一度、きまって連絡がくるのだ。一方私は至って普通な人間なほうで(かつて付き合っていた彼の口からその評価を聞いた時にはさすがに落ち込んだが)、ユミといると聞き役に徹することしかできない。でもそういうところがいいのだろう、オトコが変わることはあっても私たちの関係は変わらずに続いてきた。
だからといって、今回わざわざユミのために飛行機に乗りさらに船に乗り継いだりするのは、やりすぎかもと思う。こんなユミ的行動は当然私にとっては初めてのことだけど、ユミができないんだったら私がしないといけない、と少し意気込んでこんな南の島まで来てしまった。コートの襟を立て足早に歩いていた東京とは違い、ここでは未だ高い位置から陽が差している。風がなかったら汗ばむくらいだ。
船を降りスーツケースを引いて、タクシー乗り場へ向かう。途中たむろした男たちが私のことを無遠慮に値踏みする。遠くまで来てしまったと強く感じ、私は無性に寂しくなってきた。少し先で一台だけ止まっていたタクシーから運転手が走り寄ってきて、私の代わりにスーツケースを引っ張ってくれた。
「ホテルかい?」
乗り込む前に運転手がそう尋ねてきたので、私は頷いた。ユミの話で島には一軒しかホテルがないことを知っていたから。
サトウキビ畑の中を車は進む。風が舞い葉は思い思いの方角に揺らされる。運転手にどこから来たのかとか、仕事は何だとかひとしきり聞かれた。
「そういや春にも同じような客、若い女の子を乗せたな」
車はホテルのエントランスをくぐり抜ける。
「住みついちゃったんだよ、その子。えーと名前は……」
窓の外にユミの姿が見えた。長旅のせいか私は瞬時に興奮してしまい、夢中で手を振った。彼女のお腹はずいぶんと大きくなっている。運転手は突然判明した私たちの関係に驚きながらも、ユミのそばに車を寄せてくれた。
自動ドアが開く。ユミは笑顔で大きく手を広げている。私はお腹を押すことのないよう注意して彼女に抱きついた。そんなことをするのは初めてだったけれど、心からそうしたい気分に私はなっていた。