仮掲示板

59期感想

59期も面白く読ませてもらいました。「つまらないという感想なんて……」と言っているわりには自分の感想もたいしたものではないことがあらためて確認できました。感想を書くと(自分も含めて)読解力が丸出しになります。


#1白い部屋。
作者: 成多屋さとし
 気づいたら「(あなたの)才能」と称された部屋にいた主人公が、なぜか内側にとりつけられたインターホンを鳴らし続ける話。
 こういう夢をみたことあるような気がする。焦らなくてゆっくり座っていればいいものの、なぜか焦ってしまうんだね。

#2硝子の虫
作者: 森 綾乃
 飛蚊症になった主人公が眼科に行く話。
 たしかに知ってしまえばそんなに怯えることもない症状だけど、知らないと驚く。

#3ビーアグッドサン
作者: バターウルフ
 父親が死んだ日に主人公のペニスに異変が起こった。なんとペニスが父親の声で話しはじめたのだ。やがて母も死に、今度は右手から母の声がするという話。
 想像するとグロテスクだ。

#4忘れられた昼食
作者: 公文力
 (たぶん)頭のおかしい主人公のもとに警察官がやってくる話。
 ハル子って誰だろう?

#5吉右衛門と六甲おろしのおはようサンデー
作者: 宇加谷 研一郎
 大阪で暮す夫婦の明け方の会話。妻は生活にやや疲れているものの夫の意味不明な歌で現実を肯定しようとする話。
 わしのおはようサン、というのはちょっと……。

#6八丁林の探索は
作者: bear's Son
 転校してきたばかりの小学生が学校の裏山に自分の秘密基地をつくる。みつかったら嫌だな、と思っていたら見つかってしまうものの、その場で仲良くなる話。
 ひさしぶりに澱みのない話を読めた気がする。よかった。

#7逢魔が時
作者: TM
 路地裏で車椅子の老人から「悪」について問答をふっかけられた「僕」が逆に老人の魂を抜き取る話。
 たしかに「悪」だけを拾いあげてみれば世の中は悪だらけだろう。

#8医者と死神の微妙な関係
作者: 佐々原 海
 限りなく死にちかい患者を安心させるため嘘をついた医者の前に、自称死神(なぜか少女)が現れる。医者が患者を助けたいのを死神は知って、死神は患者を殺さないようにする。それを知った医者は死神と医者の相性がいいことを思う、という話。
 この話は真実から目をそらした話であるように思う。ちょっと都合がよすぎる。死神が死人を救うのはあきらかにルール違反なわけだから、死神はそれだけ自身が犠牲にならなければいけない。たとえば、死神が好きになったその医者の命をかわりに奪うとか、自分の身体の一部がなくなっていくとか。

#9シバタ坂のデンジャーゾーン
作者: かんもり
 小学生時代に安藤、西野、宇田川の三人が頭文字をとってANUという秘密基地(?)をつくった。そこに佐倉という苗字の主人公が加わった。十数年たって四人で再会するたびにANUSという頭文字をおかしがっているという話。
 おかしいと思わなかった。

#10月はただ静かに
作者: 黒田皐月
 花火大会が行われた或る晩、華々しく打ち上げられた花火や現代の“蛍の光“の携帯電話、終了後の自動車のヘッドライト……様々な光で彩られたあとに訪れた静寂であるが、まだ月が悠然と花火よりも高くあがろうとしていた、という話。
 すばらしい。花火の描写なのか、と思っていた。それでも十分に読み応えがあると思ったのに(「漁港の先端で打ち上げられた花火が、色を失った浴衣姿に見せつけんばかりに海上に大輪の花を咲かせた。砂浜でそれを見る観客には、光と音だけでなく、破裂の衝撃や火薬の匂いさえも感じることができた」というところなど)、ラストの一文にはすべてをひっくりかえす力があった。毎回、黒田さんのホームページのデザインや掲示板の書き込みとその書かれた作品のギャップに驚かされるものの、今作品は格別そのギャップが特別に大きい。

#11パッキン
作者: 壱倉柊
 居候の姉が姿を消して、部屋の後片付けをする主人公が掃除をしながら(姉への)愚痴をこぼす話。
 カビの掃除の描写がやけに生々しい。

#12三軒先の如月さん
作者: 白雪
 花とうどんが好きという男(?)に恋する話かと思いきや、彼は犬であった、という話。
 こういうのがオチというのなら、あまりオチのある話は好きではないな、と思った。作者の「おもしろい」と読み手の私の「おもしろい」が食い違っていた場合、言い表せない読後感に苦しめられる。

#13バドミントン
作者: 灰人
 南フランスの丘で一人、風を相手にバドミントンをしている影の話。
 蒸し暑い夏を涼しくしてくれる短編。オチなんていらない、と思わせる代表的な一編だ。

#14暑寒
作者: 川野佑己
 地名に関して主人公がアーデモナイコーデモナイと考える話。
 観念小説というのだろうか。主人公の観念世界に信頼してノっていければ読めるけれども、そうでないときは読めない。

#15ガラスの瞳
作者: fengshuang
 ちょっとこちらの読解力ではどんな話なのかわからなかった。

#16花の卵
作者: 朝野十字
 小学校のウサギが殺されて、その犯人と思われた少年が先生から叱られる話。
 村上春樹の「スプートニクの恋人」にもかなり似たような話があったような気がする。
 怒った先生が母親の前なのにカッターナイフで子供の指を突き刺そうとするのはいささか現実味を欠いているように思われる。ひさびさに朝野さんの作品が読めると期待していたので残念だ。

#17彼と私の話法
作者: わたなべ かおる
 小説家志望の彼氏が(おそらく)文芸誌の編集者にダメ出しをくらって落ちこんでいるところに主人公(女)が帰宅してご飯を食べようとすすめる話。
 ちょっとよくわからなかったのは、主人公の女は何者なんだろう。「君の優しさを伝えられないことがもどかしい」と男がいうのがどういう意味か理解できない。女がせっかく編集者を紹介してくれたのに受け入れられなかったことがもどかしい、ってこと?

#18美術館でのすごしかた
作者: qbc
 後輩と美術館に行くと、一人の美女に会う。後輩と美女は知り合いらしく、カレーパンを食べて口元が汚れている後輩の唇を、美女が指で拭いてあげているのをみて主人公が羨むという話。
 たしかに羨ましくなるかもしれない。

#19水晶振動子
作者: るるるぶ☆どっぐちゃん
 ぶるぶるマシンに17歳の純粋青年を閉じ込め、ぶるぶるするのをみて喜ぶオカマの話。
 ……と要約してしまうとこの作品の面白さはふっとんでしまう。スジでは説明できない作品の力がある。やはり作者の文体で読まないとちっとも面白くない、というのがこの人の魅力だ。小説を構成する大きな力のひとつは「文体」なんだ、と確信した。リズムがあって、倒錯してるのにちっとも生臭くなく、それでいてエロい話が普通、書けるだろうか。愚かな話であるが、とてもおいしい話である。

#20ドライブ
作者: たけやん
 田舎道をドライブしてたくさんの顔に囲まれたと思ったらひまわり畑にいた、という話をだれかにしている話。
 そうなんだ、と思った。

#21カメレオン
作者: 仙棠青
 震えているカメレオンをつかまえて飼うことにした主人公。カメレオン飼育法(活字を与える?)とおりに、まずはベストセラーの活字を与えてみるが、うまくいかない。芥川をあたえるとゆっくり動き始め、川端、村上、鏡花、ドストエフスキー、スウィフトとやっていくと順調に育つものの、いつの日か膨張してしまって、本を与えるのをやめるとそのうち破裂した……という話。
 面白く読ませてもらった。これぞ小説、という見本のような一編だと思う。いささか本読みに対する風刺も効いているところなんかも(スウィフトでケラケラというのがいいな)。

#22オチのない話が書きたい
作者: 三浦
 愛犬を亡くした男のもとに女からプレゼントが贈られて、それは死んだぶりの芸をする生き物だった(?)という掌編を書きながら、これではいけないと悩む短編作家は散歩に出て図書館へ向かい、一冊だけ活字になった自著をくる。(ここからよくわからなかった)そこで臭いをかいで煙草を吸うという話。
 最後のところがこちらの読解力のため、理解できないのが残念だった。

#23ナガレ
作者: 草歌仙米汰
 流れるプールで遊んでいたカップルであるが「一周したらまた会える」といって男だけ流されていく。女はその場で待つものの、そのうちにプールはプールでなくなり、流れてきたのは彼の彫刻刀で、女はプールが環状であることを信じなくなったという話。
 環状のプール、流されてまた戻るからという男、というのはたぶん比喩だと思うけど、るるるぶ氏とは違った種類の美しさがある。巧さの問題ではなく、何か自分なりの書きたいものがある人だと思った。

#24こわい話
作者: 長月夕子
 女が東京にでてきて一人暮らしを始めたころの話をする。とくにトイレが特徴的で狭いうえにタンクが間近にあるのでバランスをとるのに必死だった、この怖さは誰にでもわかるものではない、恐怖って他人にはくだらないものよ、と女が語る話。
 単純に面白かった。オチとかスジとか考える必要もなかったし、それでいて「恐怖とは」ということが作者の言葉で書かれている。こういうのを生きている話、というのだと思う。ただ、ここはいらないんじゃないかと思うのがラストの一文。「けれど恐怖って大概、他の人には取るに足らない、くだらないものだったりするの。そしてそういう恐怖に、人は簡単に捉えられてしまうものなのよ。」この一文があるからいわゆる多くの読者は話を理解し、納得するのかもしれないけど、この一文を削っても話を理解できる読者は存在する。そしてこの一文を削って「どうしたの?これが怖い話かですって?そうね、あなたにはわからないかもしれない。」とだけで話を終わらせることによって、或る意味で読者は突き放され、そして一部の少数な読者は「そうそう、そうなんだよ、そうなんだよ」と残りの部分を想像力で補って読むだろう。つまり、奥行きがうまれる。

#25ぷらなリズム
作者: とむOK
 腹が減った主人公が凍った鶏肉を切るつもりが自分の指を切る。ところが指は再生し、それはプラナリアとよばれる生物であった。そうこうしているうちに生活が危うくなり、主人公は働きにでる、という話。
 表現力には何の問題もない、うまい文章だと思うのに、書かれている内容に同意できない。こういうときちょっと悔しい気持ちになる。虚無や疲れや逃げるのではなく(それが何であれ)向き合っていく話がよみたい。

#26お別れのキスのことばかり考えていた
作者: 最中
 初恋に限りなくちかい女性と時を経て再会した主人公。すっかり垢抜けした彼女を前に、今ならば昔のように別れることばかり考えるのではなく、(汚れをしったからこそ?)幻想のようなキスができるのではないか、と考える男の話。
 「足下に群がる無数のウサギ。ドロドロの粘液に」のところがちょっとわからなかったけど(もしかしてこれは情事の後なんだろうか、ウサギというのは精子の比喩?)、いい短編だな、と思った。

#27にらめっこ開始
作者: モーレツハンニャシール15枚
 世界タイトルマッチで戦うことになった岡山県人のボクサーと栃木県人ボクサーにテレビの前のチビっ子が加わった夢の対談。
 毎度のことながらよくわからなかったが、おもしろいような気もする……。るるるぶ氏に似た勢いがあるがはたして今後もこういったギャグばかりなのか……。

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