59期も面白く読ませてもらいました。「つまらないという感想なんて……」と言っているわりには自分の感想もたいしたものではないことがあらためて確認できました。感想を書くと(自分も含めて)読解力が丸出しになります。
#1白い部屋。
作者: 成多屋さとし
気づいたら「(あなたの)才能」と称された部屋にいた主人公が、なぜか内側にとりつけられたインターホンを鳴らし続ける話。
こういう夢をみたことあるような気がする。焦らなくてゆっくり座っていればいいものの、なぜか焦ってしまうんだね。
#2硝子の虫
作者: 森 綾乃
飛蚊症になった主人公が眼科に行く話。
たしかに知ってしまえばそんなに怯えることもない症状だけど、知らないと驚く。
#3ビーアグッドサン
作者: バターウルフ
父親が死んだ日に主人公のペニスに異変が起こった。なんとペニスが父親の声で話しはじめたのだ。やがて母も死に、今度は右手から母の声がするという話。
想像するとグロテスクだ。
#4忘れられた昼食
作者: 公文力
(たぶん)頭のおかしい主人公のもとに警察官がやってくる話。
ハル子って誰だろう?
#5吉右衛門と六甲おろしのおはようサンデー
作者: 宇加谷 研一郎
大阪で暮す夫婦の明け方の会話。妻は生活にやや疲れているものの夫の意味不明な歌で現実を肯定しようとする話。
わしのおはようサン、というのはちょっと……。
#6八丁林の探索は
作者: bear's Son
転校してきたばかりの小学生が学校の裏山に自分の秘密基地をつくる。みつかったら嫌だな、と思っていたら見つかってしまうものの、その場で仲良くなる話。
ひさしぶりに澱みのない話を読めた気がする。よかった。
#7逢魔が時
作者: TM
路地裏で車椅子の老人から「悪」について問答をふっかけられた「僕」が逆に老人の魂を抜き取る話。
たしかに「悪」だけを拾いあげてみれば世の中は悪だらけだろう。
#8医者と死神の微妙な関係
作者: 佐々原 海
限りなく死にちかい患者を安心させるため嘘をついた医者の前に、自称死神(なぜか少女)が現れる。医者が患者を助けたいのを死神は知って、死神は患者を殺さないようにする。それを知った医者は死神と医者の相性がいいことを思う、という話。
この話は真実から目をそらした話であるように思う。ちょっと都合がよすぎる。死神が死人を救うのはあきらかにルール違反なわけだから、死神はそれだけ自身が犠牲にならなければいけない。たとえば、死神が好きになったその医者の命をかわりに奪うとか、自分の身体の一部がなくなっていくとか。
#9シバタ坂のデンジャーゾーン
作者: かんもり
小学生時代に安藤、西野、宇田川の三人が頭文字をとってANUという秘密基地(?)をつくった。そこに佐倉という苗字の主人公が加わった。十数年たって四人で再会するたびにANUSという頭文字をおかしがっているという話。
おかしいと思わなかった。
#10月はただ静かに
作者: 黒田皐月
花火大会が行われた或る晩、華々しく打ち上げられた花火や現代の“蛍の光“の携帯電話、終了後の自動車のヘッドライト……様々な光で彩られたあとに訪れた静寂であるが、まだ月が悠然と花火よりも高くあがろうとしていた、という話。
すばらしい。花火の描写なのか、と思っていた。それでも十分に読み応えがあると思ったのに(「漁港の先端で打ち上げられた花火が、色を失った浴衣姿に見せつけんばかりに海上に大輪の花を咲かせた。砂浜でそれを見る観客には、光と音だけでなく、破裂の衝撃や火薬の匂いさえも感じることができた」というところなど)、ラストの一文にはすべてをひっくりかえす力があった。毎回、黒田さんのホームページのデザインや掲示板の書き込みとその書かれた作品のギャップに驚かされるものの、今作品は格別そのギャップが特別に大きい。
#11パッキン
作者: 壱倉柊
居候の姉が姿を消して、部屋の後片付けをする主人公が掃除をしながら(姉への)愚痴をこぼす話。
カビの掃除の描写がやけに生々しい。
#12三軒先の如月さん
作者: 白雪
花とうどんが好きという男(?)に恋する話かと思いきや、彼は犬であった、という話。
こういうのがオチというのなら、あまりオチのある話は好きではないな、と思った。作者の「おもしろい」と読み手の私の「おもしろい」が食い違っていた場合、言い表せない読後感に苦しめられる。
#13バドミントン
作者: 灰人
南フランスの丘で一人、風を相手にバドミントンをしている影の話。
蒸し暑い夏を涼しくしてくれる短編。オチなんていらない、と思わせる代表的な一編だ。
#14暑寒
作者: 川野佑己
地名に関して主人公がアーデモナイコーデモナイと考える話。
観念小説というのだろうか。主人公の観念世界に信頼してノっていければ読めるけれども、そうでないときは読めない。
#15ガラスの瞳
作者: fengshuang
ちょっとこちらの読解力ではどんな話なのかわからなかった。
#16花の卵
作者: 朝野十字
小学校のウサギが殺されて、その犯人と思われた少年が先生から叱られる話。
村上春樹の「スプートニクの恋人」にもかなり似たような話があったような気がする。
怒った先生が母親の前なのにカッターナイフで子供の指を突き刺そうとするのはいささか現実味を欠いているように思われる。ひさびさに朝野さんの作品が読めると期待していたので残念だ。
#17彼と私の話法
作者: わたなべ かおる
小説家志望の彼氏が(おそらく)文芸誌の編集者にダメ出しをくらって落ちこんでいるところに主人公(女)が帰宅してご飯を食べようとすすめる話。
ちょっとよくわからなかったのは、主人公の女は何者なんだろう。「君の優しさを伝えられないことがもどかしい」と男がいうのがどういう意味か理解できない。女がせっかく編集者を紹介してくれたのに受け入れられなかったことがもどかしい、ってこと?
#18美術館でのすごしかた
作者: qbc
後輩と美術館に行くと、一人の美女に会う。後輩と美女は知り合いらしく、カレーパンを食べて口元が汚れている後輩の唇を、美女が指で拭いてあげているのをみて主人公が羨むという話。
たしかに羨ましくなるかもしれない。
#19水晶振動子
作者: るるるぶ☆どっぐちゃん
ぶるぶるマシンに17歳の純粋青年を閉じ込め、ぶるぶるするのをみて喜ぶオカマの話。
……と要約してしまうとこの作品の面白さはふっとんでしまう。スジでは説明できない作品の力がある。やはり作者の文体で読まないとちっとも面白くない、というのがこの人の魅力だ。小説を構成する大きな力のひとつは「文体」なんだ、と確信した。リズムがあって、倒錯してるのにちっとも生臭くなく、それでいてエロい話が普通、書けるだろうか。愚かな話であるが、とてもおいしい話である。
#20ドライブ
作者: たけやん
田舎道をドライブしてたくさんの顔に囲まれたと思ったらひまわり畑にいた、という話をだれかにしている話。
そうなんだ、と思った。
#21カメレオン
作者: 仙棠青
震えているカメレオンをつかまえて飼うことにした主人公。カメレオン飼育法(活字を与える?)とおりに、まずはベストセラーの活字を与えてみるが、うまくいかない。芥川をあたえるとゆっくり動き始め、川端、村上、鏡花、ドストエフスキー、スウィフトとやっていくと順調に育つものの、いつの日か膨張してしまって、本を与えるのをやめるとそのうち破裂した……という話。
面白く読ませてもらった。これぞ小説、という見本のような一編だと思う。いささか本読みに対する風刺も効いているところなんかも(スウィフトでケラケラというのがいいな)。
#22オチのない話が書きたい
作者: 三浦
愛犬を亡くした男のもとに女からプレゼントが贈られて、それは死んだぶりの芸をする生き物だった(?)という掌編を書きながら、これではいけないと悩む短編作家は散歩に出て図書館へ向かい、一冊だけ活字になった自著をくる。(ここからよくわからなかった)そこで臭いをかいで煙草を吸うという話。
最後のところがこちらの読解力のため、理解できないのが残念だった。
#23ナガレ
作者: 草歌仙米汰
流れるプールで遊んでいたカップルであるが「一周したらまた会える」といって男だけ流されていく。女はその場で待つものの、そのうちにプールはプールでなくなり、流れてきたのは彼の彫刻刀で、女はプールが環状であることを信じなくなったという話。
環状のプール、流されてまた戻るからという男、というのはたぶん比喩だと思うけど、るるるぶ氏とは違った種類の美しさがある。巧さの問題ではなく、何か自分なりの書きたいものがある人だと思った。
#24こわい話
作者: 長月夕子
女が東京にでてきて一人暮らしを始めたころの話をする。とくにトイレが特徴的で狭いうえにタンクが間近にあるのでバランスをとるのに必死だった、この怖さは誰にでもわかるものではない、恐怖って他人にはくだらないものよ、と女が語る話。
単純に面白かった。オチとかスジとか考える必要もなかったし、それでいて「恐怖とは」ということが作者の言葉で書かれている。こういうのを生きている話、というのだと思う。ただ、ここはいらないんじゃないかと思うのがラストの一文。「けれど恐怖って大概、他の人には取るに足らない、くだらないものだったりするの。そしてそういう恐怖に、人は簡単に捉えられてしまうものなのよ。」この一文があるからいわゆる多くの読者は話を理解し、納得するのかもしれないけど、この一文を削っても話を理解できる読者は存在する。そしてこの一文を削って「どうしたの?これが怖い話かですって?そうね、あなたにはわからないかもしれない。」とだけで話を終わらせることによって、或る意味で読者は突き放され、そして一部の少数な読者は「そうそう、そうなんだよ、そうなんだよ」と残りの部分を想像力で補って読むだろう。つまり、奥行きがうまれる。
#25ぷらなリズム
作者: とむOK
腹が減った主人公が凍った鶏肉を切るつもりが自分の指を切る。ところが指は再生し、それはプラナリアとよばれる生物であった。そうこうしているうちに生活が危うくなり、主人公は働きにでる、という話。
表現力には何の問題もない、うまい文章だと思うのに、書かれている内容に同意できない。こういうときちょっと悔しい気持ちになる。虚無や疲れや逃げるのではなく(それが何であれ)向き合っていく話がよみたい。
#26お別れのキスのことばかり考えていた
作者: 最中
初恋に限りなくちかい女性と時を経て再会した主人公。すっかり垢抜けした彼女を前に、今ならば昔のように別れることばかり考えるのではなく、(汚れをしったからこそ?)幻想のようなキスができるのではないか、と考える男の話。
「足下に群がる無数のウサギ。ドロドロの粘液に」のところがちょっとわからなかったけど(もしかしてこれは情事の後なんだろうか、ウサギというのは精子の比喩?)、いい短編だな、と思った。
#27にらめっこ開始
作者: モーレツハンニャシール15枚
世界タイトルマッチで戦うことになった岡山県人のボクサーと栃木県人ボクサーにテレビの前のチビっ子が加わった夢の対談。
毎度のことながらよくわからなかったが、おもしろいような気もする……。るるるぶ氏に似た勢いがあるがはたして今後もこういったギャグばかりなのか……。
どうして噛みつかずにいられないなぁ・・・と自分でも思うのですが。
一言。
〉#13バドミントン
〉作者: 灰人
〉 南フランスの丘で一人、風を相手にバドミントンをしている影の話。
〉 蒸し暑い夏を涼しくしてくれる短編。オチなんていらない、と思わせる代表的な一編だ。
ショートショート(に限りませんが)の技法として、最初の一行と最後の一行を同じにする(あるいは最後の一行はやや強調する)という“オチ”があります。ですから、この作品も十分“オチ”のある作品だと思いますよ。
私も十分面白いと思います。
題名どおりお礼としなければならないのですが、その前に失礼ながら意見を申し上げさせていただきたく思います。
〉つまらないという感想なんて……
このご意見は前期より以前にも一度いただいておりまして、前期ではその例の一人として黒田皐月が挙げられておりました。あの時点で反論をすべきだったのですが、それを今改めて申し上げます。
私が最も実りのないことと考えるのは、無視です。通常、つまらないと思われたものはその存在を無視されてしまいます。そうするとその作品はなぜつまらなかったのかという意見すら得られなくなります。実はこれも正しくなく、つまらなかったのか否かすらもわからない状態に陥ると言うべきでしょう。それはあまりに酷い。
これに対して最善のものは、どこが良くなかったかの助言かと考えられます。これは最善の方法であり、私には荷が重いので、そうすると次善のものに移ります。それが、つまらないという感想です。
さてこれを力の弱い私がやっても、お目汚しにしかならないかもしれない。それでもやる理由が、逆に感想が欲しいという欲求です。得んとする者はまず与えよ、give and take、そういうものです。だから私は全感想を書こうとするのです。そしてそれは私の価値観によるもので、絶対的な善ではありません。だから他の方にまで強制しようとは思いません。ですが、否定はされたくない。つまらないという感想は最善ではないとしても、その存在は否定されるものではないと、私は信じます。
だから、つまらないと言っても良い。言いたいことを、言ってほしい。
それにしても、『短編』掲示板上で最も黒田皐月作品に甘いと私が思っている方と意見が合わないのだから、面白いですね。
お礼なのですが、読んでいただきありがとうございますとしか言いようがありません。本音を言えば、言いたくないのです。
だから繰り返し、ありがとうございます。
今期は感想に対する議論が起こるでしょうか、それも期待している黒田皐月でした。
以前全感想を書かせてもらいましたが、再読して印象が変わりましたんで、もう一度書かせてもらいました。二回目なのでちょっと関係ない話も書いてしまいました。今から読み返すと最初の感想はかなりアホでした。これもそうかもしれませんが投稿します。今期はいろんな方の感想が読めて、個人的に楽しませてもらってます。ありがとうございます。
#1白い部屋。
「才能」という名の部屋に閉じ込められた主人公が焦ってインターホンを鳴らす話だと読んだけど、インターホンにでて返事をする男の立場になって読んでみると、彼の寂しさが伝わってくる。閉じ込めた相手がインターホンを押してくるのを壁の外側で待っているのだ。
#2硝子の虫
飛蚊症になった主人公が眼科に行く話と読んだけど、長月さんの感想をふまえて読み返してみると主人公は別に飛蚊症だけが気になっているわけではなくて、なにもかもがたまらなく不快なのだ。私が大学に入ったばかりのころ、周りにはそんな女の子がけっこうたくさんいたような気がする。見た目は普通なのに話してみると尖ってて、それでいて数年たつとハシカから全快したようにスーツに着替えて飛び回っていた。
小説的には三浦さんの指摘どおり「つまり自分は、あと半分しかないコーラを嘆く、悲劇的な方の人間である」の一文が文学的にこの主人公を象徴していると思う。
#3ビーアグッドサン
qbcさんの感想を読んでこの作品に対する新しい捉え方をみつけた。父親がペニスに、母親が右手に宿るというショックばかりが頭にあったけど、たしかに母親と父親が出会えるのは一定時間(個人差あり)だということになる。
それとは別に長月さんの感想には女性の視点があって勉強になった。男が読むと「う…ううむ」と思わず啄木のように自分の手をじっとみつめてしまうものだが、女性からすれば男性器は男にとっての女のソレがそうであるように神々しいシンボルとして読み取れうる。そうするとこの短編は下品のふりをしているだけかもしれない(そんなわけないか)。
#4忘れられた昼食
警察官がユーモアのつもりで「貴方は勝新ではない。」と言うシーンがあって、主人公は全然笑わないのだけど、読み返してみると私にはかなり可笑しい。会話に(それも取り調べ中に)たとえ話として勝新太郎を例にだしてくる警察官はそれほど嫌な奴ではないかもしれない。文中でも主人公のほうがなんだか挙動不審っぽい。クリスティの「アクロイド殺し」のような話に続いていくのかな。
#5吉右衛門と六甲おろしのおはようサンデー
長月さんの感想にすべて集約される気がする。
#6八丁林の探索は
勇太と雄太は誤字だとは思うけど、それをあえて「誤読」した三浦さんの解釈はすばらしい。勇太が友達と仲良くなれた一方、今でも「拾った枯れ枝で草木をやっつけたり、いろいろ想像をたくましくしながら茂みを歩」いている雄太、という読み方は創造的だった。こういう風に面白さをひきだす感想が書けたらいいな。
#7逢魔が時
個人的な話になるけど、昔ベンチにすわって小川を眺めていたら、じいさんが隣にやってきて「君はアメリカについてどう思うかね?」と言ってきたことがある。黙っていると、アメリカがどんなにひどいことをしてきたか説明された。再読していたら、急にそのときのことを思い出した。
#8医者と死神の微妙な関係
この作品については勝手に改作した感想を書かせてもらって、なんだか申し訳ない。調子にのってしまった。
ハンニャさんが「この灰色が青色に変わるわ」というセリフを褒めていたのが印象的だ。それまでハンニャさんのギャグがわからなかったのだけど、この一文をみつけることができる人が書くギャグなのだから、きっと私の読み方はまだ甘いのだろう、と反省した。
#9シバタ坂のデンジャーゾーン
三浦さんがSEとザビエルで組み合わせれば……と書いていたのがある意味でショックだった。「おかしいと思えない」と大上段に切り捨てる自分の感想は甘いと思うのはこういう点である。以前黒田さんに「つまらないと感想を書くのはつまらない」ということを間接的に書いて、それに対して返事をもらったまま何も返していなかったのだけど、
つまり、「つまらない」と書くのって悪いことではないけど芸がないんだね。作者にとっては「つまらない」の感想も勉強になるのかもしれないけど……本当に勉強になるのかな? むしろその「つまらなさ」を汗水たらして指摘するより、「こうしたらおもしろいんじゃない?」とさりげなく提示するほうが作者も感想者自身にも有益なやりとりになる気がする。でもなかなか自分もうまくそれができない。
#10月はただ静かに
読み返しても素晴らしいという感想は変わらない。たぶん私だけかもしれないが、この説明的なのにスラスラ読める悪文(?)のリズムがいいのだ。たとえると吉田健一のようだ。改行もせず、数ページも句読点をつけないときもある吉田健一は、本当に自分の好きなことを好きなようにしか書かなかった。誰からも読まれているわけではないけど、没30年をこっそり偲ぶ少数の読者は今も存在している。
月が花火よりきれいだったーーこれだけのことのために書かれた作品がウェブで読めたことが私は嬉しかったです。qbcさんは「古いのが好きなら昔の作家を読めばいい」ということを書いていたけど、今「かっこいい」のはすぐにでも古くなる。ツモリチサトももう古くなった。
話をもどすと黒田さんは「いつも(黒田さんに対して)評価を甘くしてくれる人」と私を評したけれども、私は黒田さんその人ではなく、ご自身も気づいていない黒田さんの才能に気づいた一人だと思っている。
それだけに、浴衣姿がみたいだけだった、しみじみ月などみない黒田でしたーモグモグ……という箇所にはその才能と乖離している実生活が伺えて、私は「惜しい!」と思ってしまいます。おせっかいなロチェスターでした。
#11パッキン
下着を残して、寝ていた布団を敷きっぱなしのまま家をでる姉、というのは女兄弟のいない私にはとても刺激が強かったです。そんなことを妹がいる友人に訊いてみたところ「じゃあ母親が下着だったら欲情するのか」と言われましたがたしかに母親だったら嫌です。でも妹だときっと違いますよね?
つい最近、トラン・アン・ユンという監督の「夏至」という映画をみて、そこでも妹と兄が二人で住んでいるんですが、妹はいつも下着姿でたえず兄貴を誘惑していました。が、兄貴はその気になってませんでした。思わず、この映画のことを思い出しました。関係なくてすいません。でもこの作品のなかで彼に別れ話を持ちかけた恋人にはきっと男兄弟はいないでしょうね。
#12三軒先の如月さん
うどんが好きな犬っていうのは、想像すると可笑しいですね。すいかも食べるんだ。
#13バドミントン
これも個人的な話になりますが、先日あるピアニストの演奏を聴いていたときに、スポットライトが強かったのか、ピアニストの影がはっきりと舞台に映っていました。指までみえる距離だったんですが、影が弾いているピアノを聴くのはいい気持ちでした。この作品の「風を相手にバドミントンしている影」が違和感なく呑みこめました。涼しくなりました。背景をかえて楽しむという三浦さんの発想も新しかったです。
#14暑寒
やっぱり今度も読もうとして読めなかったです。というのも理由があって、たぶん作者の“念”みたいなものを感じるからだと思う。私自身、あまりに辛い状況に陥ると、急に「どうしてこのカップの絵柄は鶴なんだろう?」とだまってカップを眺めていたことがあります。もちろん作者の川野さんの意図は別のところにあるのかもしれないし、最近「短編」内ではやってるメタ(?)というやつかもしれない(作者は健全であるが、かつて自分が苦しかったときの独白を思い出し、読者がそれを作者自身と読むだろうと想定して楽しみながら書いている)。
#15ガラスの瞳
いろんな方の感想を読んで、やっと話がつかめました。テディベアと犬が語るところがよかったです。
#16花の卵
「指が五本、だから五回質問しよう。君がウサギを殺したと認めない間、一本ずつこれを突き刺す。小指から始めるよ」というセリフを先生が言うところに初読のときは違和感を覚えました。けど、この作品がどういう話だったか思い出そうとするとここばかりが思い出される。さすがにこんな思いをしたことはないけど、私も嫌いな先生が多かったです。
#17彼と私の話法
いろんな方の感想を読んでると結構な確率で「この女が怖い」というのをみる。私も初読時は「こ…わい」と思った一人だけど、この女性を中年のOLというイメージで読んだからであって、もしもこれが風俗嬢がヒモに語りかけている図、と読み替えてみるとなかなか絵になるというか、なるほど、というか納得します。でも女の「けれど、今は」と「コク、と頷く彼を、今は」の部分など、やっぱり怖いかな。うーん、やはり風俗嬢ではなくて中年OLに決まりました。いつヒモを捨てるか、と迷ってるのでしょうか。
#18美術館でのすごしかた
モグラさんの感想を読んでいたら、「美術館の静けさは好きじゃないし、普段行くこともない。こんな女性とバーで飲みながら運よければお持ち帰りしてもらえたら、と思う」(うろおぼえです)ということを書いいて、それがとても的をえた感想のように思えた。
そういう点から読み直してみると、絵が好きでなさそうな主人公が女ばかりに気をひかれていって、最後にカレーパンにやられるのは見事な展開だと言える。三浦さんの「月9のドラマなら」というのもモグラさん同様、的を得ていると思いました。
#19水晶振動子
初読時は「ぶるぶるマシンに17歳の純粋青年を閉じ込め、ぶるぶるするのをみて喜ぶ」ということにしか触れていなかった。肝心なことを忘れていた気がする……というのは、あらゆる電化製品にクリスタルが使われているということからこの作品は始まっているのだ。
そんなこと知らなかった。機械のように冷酷、とかよく使うけれども、その機械の心臓にクリスタルが使われている。17歳の青年を閉じ込めて喜ぶオカマ、というのがちっとも下品にならないのは、その底辺を水晶のイメージが守っているからかもしれない。
るるるぶさんの作品はリズムと選択している固有名詞のかっこよさが魅力的だけど、それだけではない古いものの持つ新しさというのを根っこのところでとても大事に守っている人のように思えてならない。性別不明だけど、呉服屋の若旦那、あるいは深窓の令嬢がそれぞれ反抗期に入った……という印象を作品にも作家からもいつも感じる。
#20ドライブ
これもとても個人的な体験談ですが、昔ショートムービーの手伝いをしたことがあって、ひまわり畑の中で胴あげされたことがある。たくさんのひまわりの中からニュニュっと顔だけでる映像になったのだけど、本当にひまわりって人の顔に似てます。もひとつ余談だけど、昔、友人と車で旅に出たことがありました。夜中に眠る場所を探して国道から県道に入っていくんだけど、秋田あたりでまわりが本当に真っ暗になって怖かった。音楽はレディオヘッドでした。ときどき作品をきっかけに忘れていたことを思い出します。
#21カメレオン
活字を読むカメレオンという話は再読しても(よくありそうだけどそれでも)おもしろいアイデアだ、と感心します。でも読みすぎて「破裂する」のだとしたら、まだまだカメレオンの読書量はあまりにメジャーどころでありすぎる気がしました。どうせなら選択する本でこっちを圧倒してほしいです。(作者が読書家なら)書いてて楽しくなると思います。
#22オチのない話が書きたい
冒頭の作品内作品が複雑に長いのは、あれはわざとだと思います。私の初読の態度(すぐに要約し感想一行)を「お断り」する「セールス勧誘いりません」といった意味があるように思いました。私はずいぶんと、本当は優れた作品を見逃してきたのかもしれない、と悔しい思いでいっぱいです。
#23ナガレ
最後に男から彫刻刀が贈られてきて、女の足元にからまった根を切っていって女が自由になる、という超(!)大事なポイントを初読時は逃していました。あほです。
三浦さんがこれを「愛」と書いていた(たぶん)のに納得しましたが、私はルノワールの「フレンチカンカン」という映画を思い出しました。興行師の男が洗濯娘だった美女を踊り子に仕立てあげ、最後になんともあざやかに捨てるのですが、まさか「短編」の作品からルノワールを連想するとは思いませんでした。今期のわたなべさんの作品と似ている題材だと思うんですが、書き手によっていろいろ変わるところが小説のおもしろさだと思いました。
#24こわい話
三浦さんやqbcさん、モグラさんの感想を読むとこの作品は女性がしゃべっている部分だけを読むのではなく、それを聞いている相手がいて、その姿まで連想しながら読むことについて書いていて、そうすると余分だと思った最後の一文までもが生きてきます。いろんな読み方があるんですねー。
個人的な体験を書けば私も同じようなトイレの部屋に住んでいたことがありました。木造だったのが関係あるのか、なぜかスズメバチがいたことがありました。うんこをしてました。
「どうしたの?これが怖い話かですって?そうね、あなたにはわからないかもしれない。」というセリフがひっかかります。話を聞いている相手はきっとあまり苦労をしたことがない金持ちの息子で、それ故に一見大胆で「俺は恐いものなんてない。そもそも恐いってなんだ? 幽霊は科学で説明できるし金があればなんだって防ぐことができる」とか言いそうな気がします。しかしそんなところが魅力となるときもあって主人公は惹かれているのかもしれない。おそらくいつものように黙って話をきいていた主人公は相手の傲慢さにおもわず耐えきれなくなって話しはじめた気がします。(続きものらしいので)次回が楽しみです。
#25ぷらなリズム
「表現力には何の問題もない、うまい文章だと思うのに、書かれている内容に同意できない。こういうときちょっと悔しい気持ちになる。虚無や疲れや逃げるのではなく(それが何であれ)向き合っていく話がよみたい。」と、まったくあほなことを書いていました。ごめんなさい。三浦さんの感想を読んでこの話の主人公(切り落とした指が自分の分身となり、それまでゴロゴロしていた男が社会に出て行く)の続編を読みたくなったくらいです。
#26お別れのキスのことばかり考えていた
主人公の名前がマチェクとかだったら、とても見ごたえのあるポーランド映画になるだろうな、と思いました。
#27にらめっこ開始
すいません、再読時も特に感想が浮かびません。
余談ですが、読み返すたびにハンニャさんの文章から、とても入るのが難しい進学校の生徒の顔がひょっこりと浮かんできます。テストだけではなくて、頭が良すぎるため、世にあふれた文芸作品の多くがあまりに「心情吐露」に走りすぎていることに苛立っている青年、のように見えてくるのです。不思議です。ギャグだけで書かれているのにねちねちした脂っぽいものが感じられません。普通、もっとギャグだけなら粘っこいのです。
芸がある者は芸を為す、芸がない者もまた自らの精一杯を…
…と思い一年余り活動して参りましたが、方針を転換します。
〉それだけに、浴衣姿がみたいだけだった、しみじみ月などみない黒田でしたーモグモグ……という箇所にはその才能と乖離している実生活が伺えて、私は「惜しい!」と思ってしまいます。
といったご心配をいただきましたこともありますが、なにより「発言するたびに黒田皐月という名前の仮面が揺らぐ」ような質の悪い発言を多発してしまったことにようやく気がついたからです。
少なくとも来期は、少なくともご感想ひとつひとつへの返信はしないようにして、仮面の修繕を図りたく思います。
本題のお礼ですが、
〉この説明的なのにスラスラ読める悪文(?)のリズムがいいのだ。たとえると吉田健一のようだ。改行もせず、数ページも句読点をつけないときもある吉田健一は、本当に自分の好きなことを好きなようにしか書かなかった。誰からも読まれているわけではないけど、没30年をこっそり偲ぶ少数の読者は今も存在している。
悪文の良いリズムがあるとするならばそれはきっと才能によるもので、そうであるのならば今の私の作品にもその萌芽があるのかもしれないと、思います。
本当に今の私にそれがあるのならば別として、そうでなければよほどの矯正が必要なのでしょう。矯正を指向する方がまっとうな道だと思うので、それを少しでも意識していきたいと思うのですが、来期投稿作はまったくそうではなかったりします。
この末文が一番害をなしていた、表現の乏しい黒田皐月でした。