第81期 #23

双子

 双子の子犬がいる。
 学校の最寄り駅から二つ目、家の最寄り駅からは四つ目、各駅停車しかとまらないさびれた駅の近くに貸し農園がある。駅からは歩いて十分ほど。そこを家族で借りていて、交代で水まきや間引きや収穫をすることになっている。今日はあたしが当番の日だった。
 学校帰りの途中で電車から降りて改札を通り、人通りの少ないゆるやかな坂を下りていく。信号のところで左に折れ、そのまま真っ直ぐいくと、農作業の道具とかを売っている雑貨屋さんがあって、店の入り口から離れた端っこのほうに、そっくりな二匹の子犬が繋がれている。
 たぶん雑種で、シベリアンハスキーみたいな顔をしていた。一匹は伏せて、重ねた前足の上に頭を置いて、やる気なさそうにしている。もう一匹はお座りで、怪しい人間がいないかと目を光らせて、ちゃんと番犬の役目を果たしている。
 やる気なさそうな子は触らせてくれるのだけれど、ちゃんと番犬をしている子は触ろうとすると吠えてくる。やる気なさそうな子を撫でているときも、わうわう吠えてくる。そうやって吠えられるたび、そのうちお前も撫でさすってやるんだからと胸に誓う。
 農園に着いて、水をまく前にいくつか収穫する。広い敷地を六畳ぐらいずつに仕切っていて、家庭菜園の延長みたいな感じだ。サヤエンドウとシソ、それから苺ができていた。
 水をまいていると、隣の農園を借りているおじいさんがやってきて、あたしを見つけると会釈をした。今日は会釈の人かと思いながら、あたしも会釈を返す。この前会ったときは、今の時期は何が採れるかとか、気軽な感じに話しかけてきた。
 会釈のおじいさんと気軽なおじいさんがいる。見た目はまったくおんなじで、確かめたことはないけれど、双子なんじゃないかなと思っている。雑貨屋さんに繋がれていた、あの二匹の子犬みたいに。
 ただいま、と家に帰ったころには日が暮れていて、辺りは薄暗かった。収穫したものを冷蔵庫に入れ、自分の部屋に入ると、双子の姉がベッドに寝そべっていた。あたしはベッドの横を背もたれにして座り、姉に今日の農園のことを、主に双子の子犬と双子のおじいさんのことを話した。
 双子のあたしたちが別の双子たちの話をする。ふと、その構図が面白くなって、ちょっとくらくらする。あたしは何でもなく話しながら、こっそり胸を躍らせる。姉は気のない相槌を打ちながらも、どこか楽しそうにあたしの話を聞いている。



Copyright © 2009 多崎籤 / 編集: 短編