第81期 #24

ある日、ヒトリー。

むかしむかし、独という国にヒトリーという政治家がいました。彼は与えられた任務をこなし周囲の信頼を集めていき、最後には一国の主にまでのぼりつめたのでした。彼は生来が生真面目な性格で、一度築いた地位を守るため自分の国を守るため、くる日もくる日も時間も忘れて働きました。やがて部下たちは彼をチヤホヤし始め、彼もまたすべてが自分の思い通りになると思うようになりました。そして、ある時ヒトリーがふと周りを見回すとそこには誰もいません。そこにいるのはヒトリーのみ。そう、ヒトリーは一人になってしまったのです。周囲の部下たちは彼の独裁ぶりに愛想をつかし一人減り二人減り、国民もこんな独裁者に国はまかせてられないと、みんな逃げ出してしまったのでした。哀しみにくれたヒトリーは途方にくれ何をしていいかも分からずただひたすら歩き続けました。そうしているうちに、どれぐらいかぶりに誰かに出くわしました。話を聞くと彼は名前をトナカイ侍と言うらしいです。ヒトリーが歩き続けるうちに時空の狭間に迷い込んだようです。トナカイ侍ははじめ興奮気味にヒトリーに近寄ってきました。トナカイ侍の話によると生き別れになった主従関係の三太を探しているらしくヒトリーこそまさにその三太だというのです。ヒトリーが時間も忘れて歩いているうちにかつての風貌は見る影もなく自慢のチョビ髭は真っ白のもじゃもじゃになってしまっていたのでした。トナカイ侍は形見の赤い三角帽をヒトリーにかぶせやや興奮気味に逢いたかった逢いたかったと泣き叫んでいます。ヒトリーはヒトリーで何度も自分の過去の栄光をやや誇張気味にまくしたてました。自分は三太なんて名前じゃないと何度話してもトナカイ侍は分かってくれません。そこでヒトリーはトナカイ侍がひいていたソリにのって自分の国に戻って証拠を見せようということになりました。ヒトリーとトナカイ侍は長い間空を旅しました。彼らがソリに乗って空を行く様は人々によって語り継がれましたが、その後の彼らを知る者は誰もいませんでした。そりに乗って空を行くサンタの姿は哀しみにくれたヒトリーの最後の姿であり、あの大きな袋には過去の栄光の軍服やら何やらが詰まっていたのでしょうか。



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