第72期 #3

ラブストーリーは突然に

「人数足りないから」と誘われて、久しぶりの合コン。おれの目の前に座った女の子は、ロナウドに似た、とてもおっぱいの大きい女の子だった。メーカーの受付嬢ってもっと可愛い子ばっかり揃えているのかと思っていたのに。何?このクリーチャー。そう思って回りを見たら他の子はそれなりに可愛い。おれだけロナウド。それでも、おれの目線は彼女に釘付けだった。正確に言えば、彼女の胸元に釘付け。だって、大きいから。Gカップぐらい?いやもっと大きい。ふと、昔見たプロ野球中継の映像が頭に浮かぶ。1999年の4月7日西武対日本ハム戦。たしか、松坂大輔のデビュー戦だったはずだ。2ストライクまで追い込まれた片岡が、高めのボール球に思わずスイングする。球速155キロ、空振りの三振。甲子園の怪物の鮮烈なデビュー。あまりのおっぱいの大きさに、ロナウドと分かっていながら思わず興奮する、今日のおれは片岡だった。ロナウドのおっぱいは、松坂の155キロと同じぐらいのスピードで眼球を直撃し、脊髄を通っておれの股間を刺激した。もう我慢できません。「きょう、おれ、こいつ、いただく」と幹事の板倉に目で合図してから、おれ対ロナウドの一本勝負のゴングが鳴る。カーン。

おれはまず相手を褒めることから始める。褒めて褒めて、褒めたおす。爪を褒める。服装のセンスを褒める。顔だって褒める。化粧を褒める。肌を褒める。笑顔が可愛いね、とか言っちゃう。本当は「ドリブル得意そうだよね」と言いたいところをぐっとこらえて、楽しい時間を演出する。試合終了後のお楽しみのためにおれは精一杯道化を演じた。興味も無いくせに血液型占いの話だってした。そして、程よくお酒も入ってロナウドとも打ち解けてきたところで、おっぱいについて触れる。「いやー正直最初見たときビックリしたよ。すごく大きいよね。意識しようとしなくても目線がついついそっちに行っちゃう。何カップぐらいあるの?」そしたらロナウドは、少し恥ずかしそうに答えてくれた。

「ワールドカップ」

少し間をあけてから、おれは笑った。ゲラゲラ涙を流しながら笑ってやった。おれが笑っているのを見て、彼女も嬉しそうに笑った。板倉が変な目で見ているのも気にせず、そうしてたっぷり笑ったあと、おれは彼女を本気で愛し始めていた。



Copyright © 2008 リバー / 編集: 短編