第69期 #14

愛と汚穢

 人類史が世界に対してつきたてた全書物をなめまわしくわえこんでその裏筋の挙動については理解の追随が不可能なほどのいろめかしくなまめかしい魔法めく指技によってその気にさせつつ秒単位でリクエストを検索結果として吐出させるというめくるめく都市伝説めいたプランを具体にするビジョナリーカンパニーが経済の舞台にかがやかしくもあらわれた。それ以降は朝令暮改が日に幾度あっても(すくなくとも)表面的にはおどろけなくなった。情報伝達速度向上が時間感覚の変化の強要を帰結した。戦略変更へのびっくり時間は計画遅延をまねく重篤なリスクと周知され「えマジで」とおののく者にはその発言に対する説明責任がもとめられる。
 しかし人はびっくりしたら「えマジで」と脊髄反射的に言いたい。
「えマジで」欲求は脳内で潮汐しその充溢は内面においてはなはだしい乱反射をおこし混雑を生み混雑はレミングが個体増加により集団自殺をはかるファクトを前提とすると混雑こそがストレスの根本的原因とかんがえられ帰路中途の電車内が暴走への助走路とするなら帰宅後にアルコールの瀑布で自意識をはじけとばすまでの措置として憤怒ベースの貸借対照表をおもいうかべさいきん愚痴ってない相手に正気の維持を目的としてこのメールは不可避的に送信される。
 怨嗟また怨嗟。前進また前進。蹉跌また蹉跌。希望また希望。

 というメールが元恋人からおくられてきた午前零時。
 わたしはハッコウというひとつの音がなぜ白光や薄幸や発行という言葉に変じるのかというばかを考えていたので若干うろたえる。
 二択だった。
 ひとつは彼にレミングの自殺は捏造だとおしえる。
 待て子宮役をもとめられているのに羊水に彼をひたさず、彼に父性的斧鉞のひとふりをくわえるのは、いったい、ひととして、おんなとして、どうなのか。
 ふたつめは身体変工のゆめ。
 いまわたしが執心の物語を彼に披露することにした。
 森の中、わたしは事故で右脚のひざから下を切断してしまう。いち命はとりとめる。倫理的にわるいけどその欠損は現代技術が産んだ義足でカバーできるのじゃないか。わたしは社会的弱者になる。周囲からちょっと他とちがうけどめげずにやってるなとおもわれる。障害者年金を給付される。傷痕をなでまわしながら在宅勤務なんかでほそぼそと暮らす。
 どれくらい経ったか。彼からわたしの物語への返信がとどいた。嘲弄の言葉の渦。わたしは安心した。



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