第69期 #12

なんて憂鬱な日常!

ああやるせない。
身体中だるくて胃が口から出てきそうだ。
口に手を突っ込んでみても出てくるのは胃液ばかりで解決案なんて出てきやしない。

何の変鉄もない日常に嫌気どころじゃない何かがさしてきて低い声の混じった溜め息がもれる。

やるせない気分のまま鏡を見たら死んだ顔が映ってて、更に鬱な気分になった。

いつもの履き慣れたスニーカーを蹴り飛ばしてお気に入りのぶかぶかなパンプスを履いて暗くなってきた外へ出る。
特に目的地もなく、何をするでもなく出た。
ぼんやりのんびりぶかぶかなパンプスを引きずりながら歩く。

カツン、ズッ、カツン、ズッ、

左足が浮腫んでるみたい。
ぶかぶかなはずが調度よい。

カツン、ズッ、

ああ、このまま車にでも引かれてしまおうかと思うのに律儀に横断歩道まで行き赤信号で止まる足。

カツン、ズッ、カツン、ズッ、

どんどん暗くなる空に冷たい風。
アタシ、風船になりたいな。

カツン、ズッ、カツン、ズッ、

すぐ横を通る車の音も届かないくらいにアタシはいかれたみたい。

カツン、ズッ、カツン、カツン、

あ、右足も浮腫んだ。
少し軽くなった足でアタシは丸まった背中を伸ばして歩いてみる。

カツン、カツン、カツン、カツン、

お気に入りのパンプスで背伸びした今のアタシには、この町が小さく見える。
やっぱりアタシ闇になりたい。

カツン、カツン、カツン、カツン、

気取って歩いても所詮、アタシはアタシで見える景色は気持ちしか変わらないし、しょっぱい雨も止まらない。


カツン、カツン、カツン、カツン、


でも、やっぱりなりたいのはあの小説の主人公かもしれない。

家を出たばかりのはずなのに足はもう帰路を辿ってる。
帰りたくないのに行く場所もない。
ああ、やるせないやるせない。
もう家が見えてきた。

違う、ここじゃない、アタシの居場所は。
そう、ここなんだ、アタシの居場所は。

矛盾してる矛盾してる。

唇の隙間から侵入してきた小さな滴がものすごく、しょっぱかった。

上を向いたって溢れてしまうものよ。

カツン、カ、ツン、




ああアタシ、猫になりたいんだわ!



ふてぶてしい顔した猫がアタシに向かって小さな威嚇をした。



Copyright © 2008 水野 凪 / 編集: 短編