第69期予選時の、#12なんて憂鬱な日常!(水野 凪)への投票です(3票)。
今期の「青春だらだら」を読んで、平成文化の爛熟ということを考えていた矢先にこの作品を読んで、私は個人的にとても楽しませてもらった。一言でいってしまうと、今期のイチオシである。
内容を要約してしまうと、これは退屈している女の話だと思う。だが「退屈」にもいろいろと種類と質がある。本人は退屈しているふりをしていても、実は退屈どころか、メディアに踊らされている場合など、私などしょっちゅうである。つまり、私が退屈だなあ、と思ってぼんやりとインターネット散歩をしているつもりが、実はひたすら商品広告やオークションやらに気をとられていて、そういうのは振り返ると「退屈」どころか一生懸命の「消費者」にすぎない。
そういう私の頭の退屈に比べて、この主人公は本当に退屈を全身で味わっている。ひまだ、ひまだ、と普通なら独りごとを言って寝ころんでテレビに退屈時間を奉仕するところが、彼女は自分の言葉で退屈を思考する。胃が口から出てきそうとたとえてみたり、風船になりたいと空を見あげたり、雨のしょっぱさを味わったりする。
何よりも退屈だと鬱屈しているときに、「お気に入りの」靴をはいて(そのまえにはきなれたスニーカーを蹴飛ばしたりしている……可愛らしい)散歩に出るところなど、とても上級な退屈者である。
「ああアタシ、猫になりたいんだわ!」
というのが彼女が着替えて、散歩して、雨をのみこんで、そうして出した結論だったが、私は詩人というのはこうした感性の持ち主であると思った。成り金をセレブ!と礼賛する世の中になってしまったが(そしてそれもまた平成文化の爛熟を支えている重要な要素だから否定はできない)そんな中で、こうした一流の詩人が生れていることを68期の作品にも感じたけれど、実は私は今期のこの作品のほうが好きかもしれない。わざとうまくなく書いているところが逆にこっちを本気にさせる。時間を湯水のごとく自分のためだけに使うということが、本来どのくらい快楽であるかということを、それを知らない読者にも教えてくれる作品。なのに、繰りかえすがわざと下手そうに書いているところが、とても上品で、そして優雅だ。
私が竹久夢二なら、このヒロインに絵のモデルになってもらいたいところである。
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