第6期 #17

墜落堕落短絡娯楽

 単純に言えば飽きたから。
 馬鹿っぽく言えば、空が青かったからだ。
 ぐずついた日が続いていたけれど、今日の空の青は、目が痛くなるほど綺麗だった。日差しも暖かく、柔らかく、生まれてきたこと自体を後悔したくなる、そんな優しい朝だった。
 私はレトロなビルの屋上にいた。目を付けていた、と言うわけじゃない。五階建てのビルで、管理が杜撰で、誰でも屋上に上がれて、屋上の柵が、低かった。ふと、飛び降り自殺のしやすいところだなと思ったのを覚えていただけで……。
 ふわり、スカートが膨らんだ。私がいるのは柵の外で、下に誰かいれば、この空と同じ色の下着が覗ける。スカートを右手で押さえて、もう片方の手で柵を握った。ここに立った瞬間に風が強くなり、風は私のパンツをさらけ出したいのか、それとも早く飛び降りを敢行させたいのか、そんな妄想も抱いた。
 空を見上げる。青い。優しい青だ。ふっと笑みが漏れる。
 飽きたんだ。ただ飽きただけ。特に悩みもない。いやあるけど、そんなの他の十五歳も抱いてるような悩みだ。まあ日々イライラするってのもあるかな。
 五階建ての屋上は、思ったより高かった。キレイに死ねるだろう。ブザマに死ねるだろう。そう思ってしばらく地面を見つめていた。

 手を振ってきたので、私は少し首を傾けた。
 時刻は……いつだろう。朝でも、昼でもない。私がどのくらいぼんやりしていたのか、私は知らない。髪の短い女の人だった。私を見上げていた。綺麗な人で、キレイに微笑んでいた。私と、その女の人だけがいた。残酷そうな人だ。優しそうな、笑顔だった。
 私は手を振り返した。スカートが膨らんだままだったから、パンツが丸見えだったと思う。女の人は満足そうに頷くと、すたすたと歩いて、下の地面を通り過ぎた。

 私、見るからに自殺しようってな感じだよね……? 普通、止めない?
「まあいいけどさ」
 そう呟きながら、私は柵の内側に足を下ろした。
 今日は止めにした。明日もヤメにする。明日、ここの地面で、あの女の人を待ち伏せてみようと思う。通るかどうかわからないけど、そうしてみる。通らなかったら……、さがそう。さがしだそう。この町を隅から隅までさがして、絶対に見つけ出す。
 あの女の人に、凄い意地悪をしてやる。決めた。うん、決めた。一生心に残るような、物凄い意地悪をしてやる。
「ふふ、あはは」
 青い空も悪くないなーとか、馬鹿っぽくちょっと思った。



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